[掲示板: ミュージカル一般 -- 時刻: 2024/11/29(09:44)]
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こんにちは。感想書きました。今回はコラム付きです。「金子のは長いから」という方は次の文で終わってください。「バウではゲット難チケット、あるなら行くべし」。以上です。この公演はすぐに東京に行きますので、東京で観られる方の参考になれば幸いです。それでは宜しくお願いします。
「里見八犬伝」
8月3日 ぬ列 8番
宝塚バウホール
バウ・ロマン
「里見八犬伝」
原作:鎌田敏夫 「シナリオ 里見八犬伝」角川文庫
脚本・演出:鈴木圭
<解説>
江戸時代後期の作家・滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」に新解釈を加えた鎌田敏夫著「シナリオ 里見八犬伝」を舞台化。
時代は遡ること百年前。里見一族が蟇田一族を滅ぼした。蟇田一族は、悪霊の力によって不死身の妖怪として甦り、里見一族への復讐を誓う。悪霊として甦った蟇田素藤の狙いは、里見一族ただ一人の生き残りである静姫。不気味な妖怪に襲われた館山城から命からがら逃げ出すことができた静姫は、不思議な能力を持つ、里見家ゆかりの犬士たちに救われる。静姫は宿敵・蟇田の打倒を決意し、残りの犬士を探す旅に出る。その出会いと冒険、八犬士の一人である犬江親兵衛と静姫との苦悩の中で芽生える恋を、テンポのある音楽・ダイナミックなダンスナンバーを盛り込み、新しい視点で描くミュージカル。
演出家・鈴木圭の宝塚バウホール公演デビュー作。(ちらしより)
<主な配役>(プログラム順)
犬江親兵衛(侍を目指す荒くれ者の雑兵):水夏希
静姫(里見家の唯一の生き残った姫):草凪萌
舟虫(蟇田一族に仕える老婆):鈴鹿照
蟇田玉梓(ヒキタタマズサ・里見義実に討たれた後、その怨念から甦った妖怪):貴柳みどり
犬山道節(里見八犬士の一人。八犬士の宿命が記された絵巻を持つ):美郷真也
犬飼現八(素藤に仕える侍大将。後の八犬士の一人):速水リキ
蟇田素藤(ヒキタモトフジ・蟇田一族の首領。玉梓の子):悠未ひろ
犬塚信乃(里見八犬士の一人。義妹の浜路を密かに愛する):七帆ひかる
犬村大角(里見八犬士の一人。道節と行動を共にする):和涼華
犬坂毛野(里見八犬士の一人。天涯孤独な女性):和音美桜
浜路(犬塚信乃の義妹。密かに信乃を愛する):咲花杏
<感想>
「デビュー作としてはバランスが上手く取れた作品」
まず、初日から2日目に観劇に行った。よって各個人についてなど東京の千秋楽までまだまだ変わるだろうから、そのあたりは差し引いて読んでいただきたい。
さて、原作のシナリオは読まずに行った。しかし、子供の頃、原作の原作というか、滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』は「少年・少女文庫」みたいなのを現代語訳で読んでとても面白かったのを覚えている。○学は○本文学科だったのだが、残念なことに母校には滝沢馬琴専門の先生がいらっしゃらなくて、講座をとろうにも存在しないので文学史的なことしか知らない。しかし、馬琴が失明してまで書いた、江戸時代後期の大ベストセラーであることは確かだ。だから、デビュー作としてこの題材を選んだと読んで、「まあ、コケないだろうな」とは思っていた。しかし、新人の先生、というとこの前のバウホール公演『アメリカン・パイ』の小柳先生で懲りて(言いすぎ?)いるので、ある意味戦々恐々の気分で行った。しかし、最後に「ああ、馬琴は偉大だー」と思えるような筋になっていたので、以後の鈴木先生には期待したいと思う。
上に「バランス」と書いたが、それは1つの作品の中に愛が中心で(プログラムによるとテーマ)、冒険あり、2幕はバウでは珍しい立ち回りの連続のシーンが繰り広げられ、これもバウでは初めてか、と思える小規模ながら「屋台崩し」あり、最後のフィナーレでは主役2人が上から中吊りで下りてくる、と見所がたくさんあったからだ。比較して悪いが『アメリカン・パイ』の制作費が大分こちらに回ってしまったような気さえした。「これだけやろう!」とデビュー作で考えるほうも凄い意気込みだと買うが、それを実現されたスタッフの皆さんにも拍手だ。屋台崩しの場面など、「ま、音だけかな」と思っていたら、本当に崩れてきたので、思わず客席で「おおー」と思ってしまった。しかし、立ち回りのほうはなにせ少人数プラス下級生でやっているので大変そうで、上手く槍と刀がかちあわないところなどまだ初日近くなので多々あり、これは回数を重ねるしかないと思った。でも3週間のお稽古でここまで持ち込んだのはタカラジェンヌの根性を感じた。
しかし、盛り込みすぎの影響も少しはあって、それは歌が少ないことだ。特に1幕は少ない。2幕になって、急に台詞が歌になるところがあって、なにか「つじつまあわせ」をしているのでミュージカルという感じは余りしなかった。あまり、心に残る1発で覚えられる曲もなかった。「音楽活劇」というところか。
また、宙組は大劇場では発足から一度も、本格的な日本物に当たっていないためか、所作が「やってます」という感じの人が多く、主演の水ですら、刀を鞘に収めるのに1発でできず、3回トライして収まり、客席から拍手、という変な現象があった。特に今年は大劇場ではフランスの話ばかりなので、来年ぐらいは1度、日本物のショーか芝居をいれてもいいと思う。なんでもいきなりやる、というのは難しいので、普段から日舞のレッスンをおろそかにされないように願う。全体の点数をつけるとご祝儀相場も加えて95点、というところか。あとは人別に。ただ、先に書いたようにまだ初日近いのでこれからまだ良くなる、と思って読んでいただきたい。
では、「歌劇」8月号座談会出席者から。
親兵衛の主演・水夏希。野心家で荒くれた青年が、静姫を助け、八犬士に加わることを通してピュアな心を取り戻していく、という過程を見せればいい役だが、この学年の彼女にとっては楽にこなせていたと思う。やはり、弱いのが歌で、今回は少ないからいいが、ただ声を張り上げるだけの今の歌い方ではもう1つだ。やはり、歌もドラマなのだから、感情のひだのようなものを感じられるようになればいいと思う。それと上に書いたようなことがあったので、日本物についても急に与えられても対応できるようになって欲しいと思う。しかし、他の出演者と比べてスター性、というものが抜きん出ており、順調にスター街道を歩いてきていると思った。ただ、ここのところ、こういう豪快な役が続いているような気がするので、このあたりで一度『エデンの東』のキャルのような繊細な役をやる必要もあるだろう。
静姫の草凪萌。父母を殺された姫が、自分の宿命を知り、八犬士の象徴となって敵をたおし、最後に愛を選ぶ、という典型的な時代劇のヒロインだ。初ヒロインだが、まず、最初から最後まで姫らしい、凛としたところが感じられなかったのが残念だ。それと、最初のほうがどう聞いても台詞が1本調子に聞こえてしまった。しかし、これは2幕では良くなっていたので東京では大丈夫だと思う。歌は上手いが、欲を言えば高音部の伸びがあればよかった。今まであまり宙組でクローズアップされなかった女役さんだが、この大役をバネに羽ばたいて欲しい。ただ、これは彼女の問題でないと思うのだが、静姫の髪型は前髪を下ろしているより上げたほうがいいと思うのだが。オペラグラスで見るとピンがちらちら見えた。フィナーレで少し上げたほうが綺麗に見えたので。
素藤の悠未ひろ。妖怪の首領、としては多分タカラジェンヌNO1の背の高さが生きて迫力があるだろうな、と期待して行ったのだが、場面が少ないこともあるが、あまり怖さを感じなかった。もっと、台詞回しなどに工夫して、憎たらしくやったほうがいいのではないか。まだ、新人公演を卒業したばかりの人なので、あまり言うのは酷だろうが、とくかく迫力不足である。あと、ソロの歌も聴いてみたかった。
あとは印象に残った人を。
船虫の鈴鹿照さん。そう見せ場もなく専科にやっていただくのは勿体無いぐらいだが、胡散臭い老婆をきちんと演じておられた。やはり、このような下級生が多いカンパニーではこういう専科の方の「文鎮」的な存在感が必要なのだろうか。
玉梓の貴柳みどり。帰って母がプログラムを見ながら、金子に言った第一声は「貴柳さん、怖かったでしょう」だった。たしかに『源氏物語 あさきゆめみし』(00年)を髣髴とさせる、妖怪のゴッドマザー、ぞっとするようでおそろしかった。いつものことながら「ああ、この人はタカラジェンヌであるまえに、役者だな」と思ってみていた。しかし、もう少し毒々しくやれるような気がしたのだが、この人のことだから千秋楽まで見据えたら心配していない。
道節の美郷真也。「脇役とはこうして脇を締めるものである」ということを体現しているかのような演技だった。八犬士のまとめ役であるが、下級生を一手に束ね、確実な台詞回しは安心して観ていられた。初日までにきちんと出来上がっている、というのはさすが上級生だ。こういう人こそ、宝塚に専科になってでも残っていただきたい、と思った。
大角の和涼華。CS放送のスカイフェアリーズ1期生で御馴染みの人だ。華やかな容姿は存在感を出すのだが、どうしてもすこし油断すると台詞に気持ちがのっていないところが如実に分かってしまうので、この辺りは以後気をつけるポイントだろう。行動を共にしている役の美郷からこの際学べるところは学んだほうがいい。
毛野の和音美桜。八犬士の中の紅一点なのだが、CS放送の稽古場の模様から目立っており(いやいやTVに付き合っていた父が「この人誰?」と聞くほど)、芸名が分かったので以後見守りたいと思う。まだ初日近くなのに、ソロの自分が天涯孤独なことを歌う歌では歌も上手い事ながら、涙も流れており、「なかなかやるな」と思った。難をつけるならば、やはり台詞が1本調子になってしまいがちなところがあるので気をつけて欲しい。
以上かいてきたが、下級生の多い公演なので、日本物でどこまで楽しめるか、また新人作家はどうなのかと心配ばかりして劇場に足を踏み入れたが、結構エンターテイメントとして楽しめる作品だった。バウの公演は、「当り」と「外れ」の差が大きいが、今回は「当り」だった。以上で終わる。
<金子のコラム>
「CS放送」とも関わるが、「TCA販売ビデオを買うか」というのが今回の話題。
〔1〕大劇場公演→版権があるもの以外は買わない。例えば昨年の『鳳凰伝』など7月に放送されている。版権があるものでも『ガイズ&ドールズ』のように放送される場合があるから、DVDが発売されるときの版権があるものは買う。版権がないものは、NHKハイビジョンかCSで放送されるのを待つ。よほどいい、と思った公演はDVDを買う。
〔2〕バウホール公演→絶対買わない。東京千秋楽が1年もしないうちにCSで放映になるから。
〔3〕ドラマシティ公演→これも買わない。CSあるいはWOWOWで放送される可能性が高いので。
〔4〕催し物→『TCAスペシャル』はDVDを買う。後は「スカイ・ステージ記念」と冠が打ってあると、絶対CSでやるので観劇にも行かない。
〔5〕日生劇場公演→自分が観劇をしに上京した公演で、版権があるものはビデオでも買う。例えば『雨に唄えば』。
〔6〕ディナーショー→各組、2番手以上で、自分が行ったものはビデオでも買う。下級生・専科はCSで必ず放送されるので行かないで録画してみる。
としてみると、CSに入ったことで大分ビデオ購入は少なくなったと思う。その分、自分のビデオライブラリーは急速に増えたが。DVDも大劇場公演の作品ももれなく発売されるようになったが、やはり画質・保存のことを考えたら、1ヶ月待ってでもDVDを選ぶ。今回はこんなところで。皆さんはどうされていますか?
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