[掲示板: ミュージカル一般 -- 時刻: 2024/11/25(04:33)]
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次の公演から好きな組以外は観劇回数を減らそうと思います。それは勿論チケット代があがるからです。安い席で同じ回数を観ようとも考えましたが、S席で1回、あるいはA・B席で1回で感想なしもあるかと思います。なにもかもあがる嫌な時代ですね。
星組 宝塚大劇場
6月26日→当日B席
7月3日→1階 22列センター
7月13日→1階 2列80番台
7月17日→1階 6列センター (母と)
『スカーレットピンパーネル』
潤色・演出/小池修一郎
<解説>
愛を守るための嘘、正義を貫くための秘密。
真実は、紅い花の紋章だけが知っている。
フランス女優だったマルグリットと結婚した、イギリス貴族のパーシー・ブレイクニー。
彼には妻も知らない、もうひとつの顔があった。
「スカーレット・ピンバーネル(紅はこべ)」の紋章を残す秘密組織を率いて、フランスの革命政府に捕らえられた無実の人々を救い出していたのだ。
この組織の撲滅を革命政府に任命されたショーブランは、かつて恋人だったマルグリットに近づく。マルグリットもまた、パーシーには言えぬ秘密があった。革命の嵐の中、愛と正義は守れるのか・・・・。
ブロードウェイで大ヒットしたミュージカルが、ついに宝塚歌劇の舞台に登場。
さあ、新しいヒーローの誕生です。 (ちらしより)
<メインキャスト>
パーシー・ブレイクニー(イギリス貴族):安蘭けい
マルグリット・サン・ジュスト(パーシーの妻、元コメディ・フランセーズの女優):遠野あすか
ショーブラン(公安委員、フランス政府特命全権大使):柚希礼音
アルマン・サン・ジュスト(マルグリットの弟):和涼華
マリー・グロショルツ(アルマンの恋人、衣装・鬘デザイナー):夢咲ねね
<感想>
「宝塚でこの作品をこのキャストで観劇できる幸せ」
はじめこのタイトルを読んだとき「え、これは『紅はこべ』のこと?たしか児童文学で読んだような・・・。そんなかんたんな話が1本立てで上演できるのか?」と思った。そして大人用の訳本を読んでみたのだが、なるほど面白いところもあるのだが、なにせヒロインのマルグリットが主人公で、ファッションリーダーで才色兼備の彼女が夫との結婚に絶望しているところから始まり、夫の正体を知ると粉骨砕身夫に尽くす、という女性作家ならではの女性の視点ばかりで、「これからパーシーを主役にすると大分原作から離れるな」というのは予測できた。
という予想ははまって、原作は大枠だけとられている感じがした。特にルイ・シャルル救出など、続編にあるそうだが、訳本にはまったくない要素も多かった。また、マルグリットとショーブランがかつて恋仲だった、という設定は原作にない三角関係も作ってあった。なにしろパーシーの人物像が原作よりはっきりしているのは主役なのだからいうまでもない。原作からカットされたところに惜しいところもあるが、(王室舞踏会のあとマルグリットが部屋に戻ってからパーシーが苦しみに耐えるところ。原作ではあそこが一番パーシーの人物像がでていた)1本立てとしては充分大人の娯楽に耐えるエンターテイメントとなっていて面白かった。
とにかく、いろいろな要素が詰まっている。正義・愛・憎しみ・友情・革命の暗部・笑いとあり、ミュージカルとして楽しめるし、また時代物であるので宝塚ならではの豪華な衣装も堪能できる。テーマは「自分の可能性にかけてできるだけのことを社会に対して行う勇気」ということだろうか。そしてなによりも楽しめる要素になっているのが、ワイルドホーン氏の素晴らしいが歌うのに難しそうな曲を、星組キャストが少なくとも「聴かせられる」レベルまで高めて歌ってくれることだ。このキャストで大劇場の限られた公演期間にこの演目を客席で観劇できることに大げさだが「僥倖」を感じた。95点。
こうしてほしいところはある。まず、マルグリットは革命の女闘士からイギリスの大貴族夫人におさまったわけだから、フランスから逃れてきた人は彼女を憎んで当然だと思う。フランスの劇場では彼女はののしられているが、イギリス社会でも、原作のドゥ・トウルネー伯爵夫人のような役割の役が必要な気がした。また、原作でもスカーレットピンパーネルの活躍について「そんなうまく行くか」と思うところがあったが、今回も「グラパン」をロベスピエールがまったく疑わないところなど、できすぎのところもある。また、ショーの部分が『エリザベート』からずっと同じパターンなのも飽きてきた。
安蘭けい。彼女の宝塚人生、いや舞台人として、これ以上やりがいがある役が今後来るだろうか。歌曲はやはり「♪ひとかけらの勇気」が一番覚えやすくていいが、2幕大詰めの「♪目の前の君」もギアが充分あがっていてとにかく聴き入ってしまう。演技も大劇場ではあまりコミカルなシーンは見たことはないが、初日のほうは面白くて客席爆笑というところも多々あった。一方パーシーの真実の顔では「♪祈り」など彼の苦悩が表現される。妻が才色兼備ならパーシーは文武両道という人物だろうが、いままで悪役が続いていたのが嘘のようにがらりと色を変えて、現在宝塚において「泰然自若の轟悠」というならば、「難攻不落の安蘭けい」というのが当てはまるような気がしてきた。ジュリアン・ソレルに続き、間違いなく代表作だろう。むしろ、劇団がこの作品を再演しようとするなら、誰がこの役をやれるのだろうか、と思ってしまった。
遠野あすか。この役も他の組の主演娘役を見渡しても、現在では歌唱力を考えると彼女しかできない役だ。マルグリットはいかにもヨーロッパ人で女優らしくて、まず自分の自由・自我・独立がさきにあって、妻であることは後回しである。「宝塚的」ではまったくないが、ここは日本的にやはり夫の正体をしってからの原作の奮闘振りを入れてほしかった。原作はあそこを読んでいるとマルグリットに感情移入できるのだが。小池作品はこのごろこういう「宝塚的」でないヒロインが多いが、たまには宝塚的でお願いしたい。遠野は演技面もいわゆるアクの強い女性を割り切って演じていて、ヒロインとしての現実味があった。
柚希礼音。この作品はものすごく彼女のもう決まっている目指すところに近づくことになったのではないか。ショーブランの「裏町のドブをみて育った」「強いものだけがかつ」という屈折した心理と凄みはおもったより出ていた。歌に関しては「♪君はどこに」はもう少し叙情的に歌ってほしかったし、少し怒鳴りあげるようなところが耳につくのでまだ改善の余地はあるだろう。しかし、善戦である。それに今の日本を見ていると「革命は人類の夢だった」というショーブランの心情・考えもあながち頭から否定できるものではないと思った。
和涼華。原作ではマルグリットの兄で彼女の保護者のような存在だが、こちらではマルグリットのアキレス腱でマリーに監視されているという「軟弱な」設定である。彼女の美貌がイギリス人の役の人たちと違ってフランス人らしく見えたが、やはり姉譲りの「芯の強さ」みたいなものが脚本にもっと書かれていればいいのに、と思った。儲け役である。
夢咲ねね。アルマンの恋人というこちらも儲け役。マルグリットに負けない自我の強さを感じさせて、彼女の目指すところはもうすぐ、という感じがした。
最後に大役のルイ・シャルル役の水瀬千秋が研2ながら堂々とした演技で印象に残った。
正直お金に糸目がなければ何度でも観劇したいが、次はDVDの発売を待つことにしよう。
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