月組バウホール 「HOLLYWOOD LOVER」

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456. 月組バウホール 「HOLLYWOOD LOVER」

ユーザ名: 金子
日時: 2007/12/24(14:19)

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 今年もこれで終わりです。最後は渋く終わりました。

月組 宝塚バウホール
12月23日→は列 32

Musical
『HOLLYWOOD LOVER』
作・演出/植田景子

<解説>
 ハリウッド・・・・成功を、富を、そして愛を、何かを手に入れる為、人々の夢と欲望が交錯する街。この華やかな光と闇の帝国を舞台に、いつの時代にも通じる大人の男女の愛のすれ違い、人生の苦味をスタイリッシュに描くミュージカル。

 1940年代末のアメリカ・映画の都ハリウッド。
 戦後、テレビの普及などにより、大スターを使った大作映画の製作が困難となっていた映画業界で、そんな景気の悪さを忘れさせるように、ゴールデン・エンパイア・ピクチャーズによる新作“女優サラ・ベルナール”の製作発表会が華々しく行われる。主演は、エンパイア映画の看板女優ローズ・ラムーア。そして、監督には、イタリア系新進芸術家ステファーノ・グランディが起用される。ジャーナリストたちは、わざわざイタリアからステファーノ・グランディを招いた理由に疑問を感じるが、彼こそは、実はローズの生みの親とも言うべき人物、無名だった彼女を“Hollywood Lover”として映画デビューさせ、一時期、恋人同士と噂された男であった。しかし、ローズがエンパイア映画のエリートプロデューサー、リチャード・ローガンの求婚を受け、電撃結婚してからは、そのままハリウッドに戻らず、イタリアのネオ・レアリズモの映画監督の一人として頭角を現すようになったのである。
 8年ぶりのハリウッドの街・・・、西海岸の太陽、乾いた風、砂ぼこり・・・そして撮影所、ステファーノの胸に懐かしさと、封じ込めていた思いがよみがえる。ローズがリチャードを選び、自分の元を去っていったときの喪失感・・・・今は古傷のような、苦い過去。
 再会した二人の心の中で、過去と現在が交錯し始める。そして、押し殺した想いが溢れるように、今でもお互いを求め合っていることに気付くステファーノとローズ。
 一度失ったものは、再び手にすることは許されないのか・・・・。次第に激しく愛し合う二人の前に、悲劇の予感が忍び寄る。 (ちらしより)

<メインキャスト>
ステファーノ・グランディ(イタリア系の新進映画監督):大空祐飛
ローズ・ラムーア(ハリウッドでトップクラスのスター女優):城咲あい
リチャード・R・ローガン(大手映画会社「ゴールデン・エンパイア・ピクチャーズ」のNO1プロデューサー):遼河はるひ
ビリー・コーマン(ステファーノの旧友のカメラマン):桐生園加
マーガレット・コーマン<マギー>(ローズの旧友の元女優):花瀬みずか
サミエル・ブライトン<サム>(ステファーノの助手):麻月れんか

<感想>
「大空祐飛の魅力が存分に堪能できる秀作」

 初め、公演案内を読んだとき「筋はどうあれ観たい」と思った。というのは、植田景子先生の作品で大空が主演した「THE LAST PARTY」は観劇していて胸を打つ、というより心臓をえぐられるほど感動したので、このコンビならば期待できる、と思ったのだ。月組ファンでない観客もそう思ったのではないだろうか。そして筋が発表されると、『華麗なるギャツビー』を思わせるところもあり、ポスターも思い切り渋いので「これは年末最後に渋いのを観にいくことになりそうだな」と期待した。

 一度別れた恋人同士の再会、男は「過去を取り戻そう」という、女は初めは拒むものの二人の思いは再び燃え上がる、しかし二人の前には壁がある。それを取り壊そうとすると起こる悲劇的結末。男は女の想いを抱いて喪失感のまま旅立つ。いわゆる「悲恋物」の王道を行くような筋だが、全体を覆うムードが時代色をあらわし、一方台詞は普遍的なことが多い。観ていて気持ちのいいテンポと出演者にほとんど役があっても多すぎると感じない、そして主役への宛て書きと座付き作者ならではの仕事とスターの魅力が堪能できる舞台だ。充実した観劇時間をすごせた。

 ハリウッドが舞台ということで、映像が多用されているが、正直星組大劇場「エル・アルコン」より効果的に思えた。登場するところのスタイリッシュさ、劇中劇での使われかた、最後の粋な締め方、と昨今映像を使うことの多い宝塚においていい見本のような気がした。また、衣装も時代色を表すものが多く、予算がどれほどあるのか知らないが、上手く使っているように思った。スタッフの方に女性が多く、宝塚も男性がジェンヌに理想の男を教える時代から、女性による理想の男の創造に代わりつつあるのだな、と肌で感じた。ひとつだけ注文をつけるならば、歌詞に英語が多く、1度聴いても分からないところもあるので、アメリカの話とはいえそこまで英語にこだわらなくとも、と思った。90点。

 大空祐飛。代表作、といって良いだろう。大人の男の責任感、誠実さ、包容力、その影に潜む孤独、一言で言えば彼女の「渋さ」が前面にでて彼女の魅力が全開だ。確かに歌唱力は弱いほうだが、こういう「アダルトな役」を今宝塚で演じたら右に出る人なし、状態だろう。とにかく良いところばかり目に付いたが、一番よかったのは、昔のローズとの写真を握り締めて、机をたたいて号泣するところで、こういうシーンは下級生には難しいだろうし、また男優がやっても様になるだろうか、と客席で感涙しながら観ていた。三つ揃えのスーツからトレンチコートまで、衣装も似合ってなにか白黒映画時代の外国の俳優さんを観ているようだった。できればもうすこし長い期間か、大きめのホールでやってほしかった。

 城咲あい。大女優の風格がかなり似合っていて、豪華な衣装も背が高いので映え、髪型の工夫のあとが見えた。ただ、ローズという人は表向きはトップ女優を張っていて、気儘にしているように見えるが、その心理は孤独で癒されることがない、という弱さと諸刃の剣であることが魅力である。城咲は強い部分はいいのだが、やはり弱さ・一人の女としてステファーノを裏切ったおろかさ、というものがもう少し対比が効けばいいのにな、と思った。歌唱にももう少しきめ細やかさがほしい。

 遼河はるひ。いわゆるワンマンプロデューサーで、妻のローズに母親を重ね合わせて大スターとして偶像を演じさせてしまう権力のある男。長身なのでこういう人を威圧する約が似合う。ものすごく強硬なところと、父親への憎しみ、最後にステファーノに勝てないと分かると「自分の思うようにしてくれ」とレイに頼むところなど、上手く演じ分けていたと思う。なによりも悪役に観えなかった所が良かったと思う。歌はまだまだか。

 桐生園加。ステファーノの親友でありながら、彼とまったく違う、妻と幸せな生活を送っている、いわゆる普通の人だが、ステファーノと違う誠実さと豪快さが頼りになりそうで、マギーとのシーンは清涼剤だった。

 花瀬みずか。マギーは女優を辞めてビリーと結婚して子供も生んで幸せな生活に満足しきってはいないだろうが、それでも「今ここにある幸せ」を大切にしている女性である。妻としてローズに「リチャードを裏切ってはならない、誰もがあなたに憧れている」と諭すところは、嫉妬で言っているのではなく、人としての道をといている、ということが前面に出てよかった。

 麻月れんか。若手ならでは役だが、恋人役の夏月都と若者ならではのなにもないが未来が開けていて、ステファーノに対する尊敬もきびきびと演じていて、よかった。

 役が多くて書き出すときりがないような感じだが、大人の酸いも甘いも知り尽くした五峰亜季のシーラ、リチャードの影として尽くす越乃リュウのレイ(たぶん飛行機事故はレイが操縦部を操作したのではと思わせる)、ステファーノの心の動きを察知して自分から去っていく理知的な恋人の涼城まりなのモニカ、その豪腕振りが台詞のパンチに現れている憧花ゆりののヘッダ、と見所満載だった。いい一年の締めだった。


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