星組大劇場　「エル・アルコン－鷹－」　「レビュー・オルキス」

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　こんにちは。年末の公演はNTTさんの協賛がありますが、今年は「こけた～」と思われているでしょうね。

星組　宝塚大劇場　
11月4日→１階21列43
11月13日→B席
12月2日→１階３列4・5
12月6日→１階６列47

グラン・ステージ
「エル・アルコン－鷹－」
～青池保子原作「エル・アルコン－鷹－」「七つの海七つの空」より～
脚本・演出／斎藤吉正

＜解説＞
　１６世紀後半。ヨーロッパの海はスペイン、イギリス、フランスが覇権を争い、度重なる戦いを繰り広げていた。その頃、イギリスの名門貴族の御曹司ティリアン・パーシモンは、24歳の若さでイギリス海軍の大佐となっていた。彼の生い立ちは複雑なものだった。ティリアンの母イザベラはイギリス人のエドリントンと結婚しティリアンを儲けたが、その風貌は黒髪に南欧独特の彫りの深い顔立ち。エドリントンは妻を疑い息子につらく当たった。ティリアンに父親以上の情愛をもって接したのが、ジェラード・ペルーであった。ティリアンは海軍士官である彼の話を聞くたびに、大海原への夢を抱かずにいられなかった。そんなある日、ティリアンは追っ手からジェラードを救い逃がす。ジェラードはスペインのスパイであり、母国に亡命したのだった。敵国のスパイを逃がしたティリアンにエドリントンは激昂し争いになるが、そのときの傷がもとで死ぬ。そして母と息子はパーシモン卿の邸に向かうことになるのだった。ここでティリアンは冷徹な道を歩み始める。海軍士官学校を優秀な成績で卒業し、海軍に入隊、異例の速さで艦長にまで上り詰める。スペインに亡命し、世界に冠たる無敵艦隊を率いて、イギリスを打破し、世界の七つの海を制覇することこそ彼の夢であったのだ。
　ティリアンは商人コールサックを利用して、武器、弾薬、スペインとの情報交換を行っていた。そんな闇取引が暴かれそうになる。だが彼は冷静に事を進めた。プリマス一の大商人グレゴリーにスペインからの偽造の密書を忍ばせ、計画的に摘発したのだった。市民から尊敬された大商人は、謀反の罪を着せられ死刑となる。グレゴリーの一人息子ルミナス・レッド・ベネディクトはち地の無念を晴らす決意をする。　
　ティリアンのスペインへの亡命は間じかに迫っていたが、一人の女が大西洋の行く手を阻む。貴族の称号を持つフランスの女海賊ギルダ・ラバンヌ。ティリアンとギルダは互いに尊重しあう、ライバル同士だった。二人の船は衝突する。敗れたギルダをティリアンは抱きしめた。ギルダもティリアンを愛した。だが彼にとっての女は、己の野望への踏み台でしかなかったのだ。ティリアンの船は進路をスペインに向けた。そこに一隻の船が現れる。ルミナス率いる海賊船であった。予期せぬ海賊の襲撃に怯むティリアンたちに援軍が。スペインの無敵艦隊であった。ルミナスの復讐は後一歩及ばなかった。
　ルミナスはティリアンとの再会に備え、海賊仲間キャプテン・ブラックの力を借りて、素のときを待つ。ティリアンは己の夢・・・「七つの海の制覇」に向け、着実に力を蓄えていた。黒くつややかな黒髪を海原に翻し、大海原を颯爽と進むその姿は“鷹”に似て、ティリアンは「エル・アルコン－鷹－」と呼ばれた。そして自ら設計した旗艦「エル・アルコン」に乗り込み、世界に冠たる無敵艦隊を率いて大海原を翔るが・・・・。（ちらしより）

＜メインキャスト＞
ティリアン・パーシモン（七つの海に己の野心を賭ける冷酷非道な海軍士官）：安蘭けい
ギルダ・ラバンヌ（フランス貴族の称号を持つ誇り高き女海賊）：遠野あすか
ルミナス・レッド・ベネディクト（父の仇ティリアンに復讐を誓う海賊）：柚希礼音
ジェラード・ペルー（ティリアンが憧れたスペインのスパイ）：立樹遥
エドウィン・グレイム（陸軍大佐、婚約者をティリアンに奪われる）：涼紫央
ペネロープ・ギャレット（海軍提督の令嬢、エドウィンの婚約者）：琴まりえ
キャプテン・ブラック（レッドを助ける荒くれ海賊）：和涼華

＜感想＞
　「展開が速すぎる」

　漫画を読んでいても、ましてや読んでいなければ、誰でもこう思うかまたは「筋がわからない」となるだろう。金子は漫画を読んでみたが、せめて１本立てならいいが、あまりにも詰め込みすぎの感がした。漫画に出てくる登場人物ほぼ全員登場だし、どんなに衣装・セット・楽曲提供にお金をかけても、筋が分からなくてはどうしようもない。

　まず、主人公の複雑な生い立ちをもっと説明する必要があるだろう。それゆえ悪事に手を染めるのだから。それと当時の国の相関図。あのスクリーンに地図を出すべきだ。（しかし、あのスクリーン、２階席後方から観るとほとんど威力がない）そして筋の刈り込みと登場人物の刈り込み。正直、エリザベス女王・ジュリエット・父親の愛人たち（シグリットさえいればいい）、もっと言えばエドウィンとペネロープも要らない。ティリアンとギルダが幼いときに偶然会ったという挿話も要らない。（だいたい、フランスからイギリスへ誰がギルダを連れてきたのだ？）

　寺嶋氏による歌曲はスケールが大きく、特に「♪七つの海七つの空」は作品世界を現していて確かに何度でも歌ってほしいが、やはり台詞で話を進めていくことがもっと必要だと思う。まあ、星組のファンでなければ、漫画も読まず「わけが分からん」で２度も観てくれないだろうな、と思ってしまった。

　テーマは青池先生がプログラムに書いておられるように「善悪とは別に自分の意志の命じるまま生きる男の生き様」ということなのだろうが、漫画を読んだときはまったくティリアンに同感できる部分はなかった。リアルな人間という感じがしなかったのである。舞台で演じられると少しはリアル感はでたが、やはり「孤独のアンチヒーロー」というだけで、なにか胸に残るものは何もなかった。やはり無念の死ならいいことをしたか、悪い顔をしているのは実はいいことのため、くらいでないと共感できない。50点。

　安蘭けい。歌が多く（その分ショーは少ないが）安蘭ならではの設定だが、初日近くに観たときは、ギルダが死ぬときの愛惜、不幸な生い立ちにしてしまった母親への思いやり、ジェラードへの「この人が父親かもしれない」という憧れと尊敬、そのジェラードを殺してから自分にも迫る孤独、という最低限あの脚本で人間的な感情が書かれているところを引き出してリアルな人間としていて、まあこういう男ならいるか、と漫画を読んだときより思った。しかし、12月にはいって観ると、漫画のように徹底的に悪人で、声も低いトーンで抑えられており（ショーの一場面で愛称を観客に叫ばれたときの明るい笑いと対照的）、人物として薄っぺらくみえてしまった。どちらがいいのかは観る人の好みによるだろうが。やはり、孤独・葛藤・情熱といった深い感情の表現に優れている人だけに、次の『赤と黒』
に期待してしまう。

　遠野あすか。小さな島でも領主であり、貴族の称号ももつ女性だから、気が強く、戦うときでも部下がズボンでも自分はスカートで凛然と剣を振るう。宝塚の娘役としてはいままでなかったヒロイン像だが、ちょっときつい面がですぎかな、と思った。ギルダがいくらティリアンを愛しても、ティリアンにとってギルダは女であり、同じ海を愛する人間としか見られていない女としての虚しさがもっとあってもいいかな、と思った。脚本がもっと対比が効いていればやりやすいのかな、とおもった。

　柚希礼音。まず、歌唱力の向上をあげたい。安蘭、遠野とうたっていても声は聴こえて来た。レッドは名門大学のお坊ちゃまが、無実の罪で父を殺されたことにより海賊となりティリアンに復讐するのだが（それに「リベンジ」という言葉は軽いような気がする。野球の試合でKOされたくらいのことではなかろう）、最後は正義のヒーローの勝利、で幕を閉じる。普通の宝塚の路線なら、こちらが主役でもおかしくない。柚希は前半のお坊ちゃまから、後半の駆け出し海賊、ティリアンとの決戦、ときちんと演じ分けていた。

　立樹遥。少年時代のティリアンが憧れ、大きな影響力を与えた、たぶんティリアンの父親。少年時代のティリアンに対しては、包容力があり、ティリアンが憧れる大人であった。一方大人になって再会してから、あまりのティリアンの残酷さに「怖くないのか！」と叫ぶが、時はすでに遅かった。その虚しさももっと場面があればいいのだが、これでは仕方がない。始めからジェラードの息子として育っていれば、ティリアンは温かい人物になれたのではないか、と思わせた。

　涼紫央。ティリアンの恋敵だが、あそこまで引っ張らなくともいい役。別の役を回したほうがよかったかも。出番が少なく残念。

　琴まりえ。生粋のお嬢様がティリアンの悪の魅力にはまって、ティリアンを我が物にしようとするが、その代わりに殺される、というかわいそうな役。始めの気位の高さから、殺されるところは地にふしてまでティリアンの愛を求める、という悪い男に利用された哀れな令嬢の末路はでていた。若手を使っていると難しかったかもしれない。

　和涼華。１月のバウホール公演のときは、線の細さが気になったのだが、今回は格好良かった。いかにもこれぞ海賊、という雰囲気だった。インパクトがある。

　ほかに成長してからの大きな伏線となるティリアンの少年時代の天寿光希が公演を重ねるごとによくなっており、ジュリエットの稀鳥まりやの押し出しのよさが目に付いた。

　とにかく、東京までになんとかできないものか、と思う。

グラン・ファンタジー
「レビュー・オルキス」－蘭の星－
作・演出／草野旦

＜解説＞
　花の女王と呼ばれるほどに人々を魅了してやまない蘭の花をテーマに、気品高く、華麗で美しく、また妖しく神秘的な世界を、“蘭の星”と呼ばれる惑星を舞台に描いたショー作品。（ちらしより）

＜解説＞
「エンターテイメントというよりアート」

　自分はダンスを習ったことはない。それでも「宝塚のショー」は好きだ。それは、今では日本で唯一ショーを観られるところであり、90年以上の伝統が作り出すダンスの形が好きだからだ。それをエンターテイメントとして楽しんでいる。

　今回はプロローグ・中詰・フィナーレを除いたほとんどの場面が、招聘したアライス氏の振り付けによるものである。確かに、クラシックでもあり、タンゴでもあり、モダンダンスでもあり、いってみればコンテンポラリーダンスのような振り付けは斬新だが、宝塚らしいエレガントさは感じなかった。（特に娘役に対して）ショーはエンターテイメントだと思っていたが、アートに感じてしまった。ひたすら全員が新しい振りについていくのが大変そうに思えた。（舞台後方の下級生のほうは特に）もう少しアライス氏の場面は減らして、いつも宝塚の振り付けをなさる先生にお任せしたほうがよかったと思う。それにいくら芝居で歌いまくっているとはいえ、歌が少なすぎる。一言で言えば「風変わりなショー」というところだ。それとテーマは「地球温暖化」としたら、あまりにも平凡な。65点。

第１場　美しき日
　ここのおじいちゃんの安蘭けいはさっきまで格好良くティリアンをやっていた人かと思うとすごいギャップで楽しいが、もう一度あとではやめてほしかった。

第２・３場　蘭の星　－プロローグ－
　このショーの特徴として、主演コンビが後半まで会わないのだが、これはちょっと難がある。このプロローグでは、カトレアでなく鳩として組ませてもいいのではと思った。主題歌もいまひとつ単調。

第５場　クラブ蘭
　ここは涼紫央のマダムが粋で色気があっていい。ただ、喧嘩になるきっかけは下手のほうだし、あっという間なのでわかりにくい。いきなり上着を脱いだ、という感じ。

第６・７場　夢
　このへんからアライス氏の振りが難しいのだな、と思えてきた。歌がないと長く感じる。

第８場　踊るカトレア
　カトレアの天邪鬼な性格を現す場面だが、ここも凄く難しそう。遠野あすか・柚希礼音２人ともプロ根性丸出し、というところ。

第９～13場　密林に咲く蘭
　中詰だが、なんかやっと宝塚らしくてほっとする。ここでも主演コンビは並んでほしい。

第15場　オルキス・ダンス
　第８場に続いて２人だけのダンスで非常に難しそう。８場と似た感じなので「またか」と思った。とにかく男役が娘役を持ち上げる振りが多いのは、女ばかりの宝塚の振りとしてはいかがなものか。

第18場　愛の蘭Ⅰ
　群舞はまた変わっていてアートを感じるものだが、正直この辺で「このショー、つまらない」と思ってしまった。なんか、コンテンポラリーダンスの発表会に来たようで。

第19場　愛の蘭Ⅱ
　このデュエットダンスは長く、テンポも変わるのでまた難しそうだが、白一色の衣装とセットが「宝塚の定番」でそれで目が慣れてくる。

第21場　美しき日
　先に書いたが、もう主演コンビのおじいちゃんとおばあちゃんは要らない。

第22場　オルキス賛歌　－フィナーレ－
　やっと羽山先生の大階段で黒燕尾の男役の総踊り。踊っているほうもすごく楽そうだが、観ている側も「定番」で納得する。もう少し長くして、安蘭のソロの歌で締めたほうがよかったかも。デュエットはダンスで堪能したし、銀橋であのように設定されるとなにか大技を期待してしまい、ただ抱き合うだけではなんということがないような気がするのだが。

　好きな人は好きなのだろうが、いまひとつ納得できない感じがした。

星組大劇場 「エル・アルコン－鷹－」 「レビュー・オルキス」

星組大劇場　「エル・アルコン－鷹－」　「レビュー・オルキス」