宙組バウホール 「THE SECOND LIFE」

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454. 宙組バウホール 「THE SECOND LIFE」

ユーザ名: 金子
日時: 2007/11/18(14:33)

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宙組 宝塚バウホール公演
11月17日→ い 16

「THE SECOND LIFE」
作・演出/鈴木圭

<解説>
 表の顔は二枚目で凄腕の殺し屋、中身は正反対の真面目な好青年、そんな二面性を持つことになった男の濃い模様を描いたミュージカル・コメディ。
 ルシア・バートンは、婚約者ジェイク・アイアンを事故で失い、生きる気力をなくした毎日を送っていた。友人のケイト・ミラーは、そんな彼女をイタリア旅行へと誘う。二人は、シチリアのあるホテルへ滞在することになる。
 二人がホテルに到着するわずか数分前、近くで殺し屋が殺害された。このあたりを仕切っているドン・ヴィンセントは、マーク・ジェイソンを右腕として雇っていた。マークは狙撃に格闘、殺しのテクニックは天下一品。おまけにクールでキザ。殺し屋界でもエリート中のエリートだった。だがドンのライバル組織からその首に多額の賞金が賭けられたマークは、殺されてしまったのだった・・・・。
 さてジェイクだが、かつては将来を嘱望されたピアニストだった。ルシアとの幸福のゴール寸前、天国へと召されたジェイクの魂は、天国からジェイクを見守っていた。そんな時、天国に大きな問題が起こった。長年にわたり天国を治めてきた神様が、引退を表明。しかし、二代目は道楽息子。神に就任してからも、相変わらず天女を追い掛け回している始末。その騒ぎに乗じて、ジェイクは監視の目を盗み、下界に降りてしまう。
 ルシアの目の前に姿を現したジェイクは、勇気を出して声を掛けた。しかし、ルシアはジェイクの姿に気付くことはなかった。それもそのはず、ジェイクの姿は人間には見えなかったのだ。ガッカリしたジェイクは、マークの死体を見つける。この様子では、まだ誰にも発見されていない様子・・・。ジェイクは、この体を借りてルシアの前に姿を現そうと考えた。しかし、突然現れた男にルシアは不信感を抱く。ジェイクはあの手この手で近付くが、一向に振り向いてはもらえない。一方、マークの生存の噂を聞きつけたドンがやってきて、新たな殺しを依頼する。自分が殺し屋になってしまったことを知り驚くジェイク。
 殺し屋となったジェイクの運命は・・・、そしてルシアとの恋の行方は・・・・。(ちらしより)=【補足】ちらしはこのとおりなのだが、実際はジェイクとマークは逆。

<メインキャスト>
ジェイク・アイアン(ヴィンセント一家で最も腕の立つ男):北翔海莉
ルシア・バートン(マークの恋人):和音美桜
ケリー・スレーター(アイラに想いを寄せる、ヴィンセント一家の一員):早霧せいな
マーク・ホワイト(1年前に他界した天才ピアニスト):七海ひろき
アイラ・ヴィンセント(ドン娘):藤咲えり

<感想>
「若手技巧派からスターのセカンドライフへ」

 歌劇団公式HPでこの公演の解説を読んだとき、「どこかで聞いた話のような気がするし、出演者は若手主体だし、どうなのだろう」と格別興味を引かれるわけではなかった。しかし、なんとなく主演の北翔海莉の前作のバウ主演作『想夫恋』がよかったので、ブレイクしそうな気がして早々に某カード会社の貸切公演で押さえておいた。

 少し脇にそれるが、この公演の全館貸切をしたカード会社は金子が頼んだこの1社だけで、話が現代の話なので、「○○カードで買ってあげるよ」「○○カードではいま○○という絵柄があるんだって」「これ○○カードで分割払い」と北翔と早霧せいなでカード会社大宣伝をアドリブで繰り広げていた。これは会員にとって結構面白かったし、カード会社は確実に次回の北翔の主演作は全館貸切するだろう。貸切元すら把握していない主演者の挨拶よりはずっと気が利いている。

 ブレイクの話に戻すが、予感が当たって(?)ブレイクした。それは北翔が古くからタカラジェンヌをイメージレディにするある会社の新イメージレディに決定し、新聞で毎日のように彼女の写真を目にするようになったことが大きいと思う。チケットは初日で完売、先にとっておいて胸をなでおろした。ということでかなり期待して出かけた。

 筋としてはオリジナリティを感じないし、よってテーマも「人間はどんな苦しくても生きることに価値がある」「人は人を愛するために生まれてきた」という春に大劇場で聞いたようなのとまったく同じで、観終わって別段胸に残るというものではない。「よくあるコメディ」と割り切ってみてしまった。(だからなのか、初めのルシアのお葬式のシーンは「これ、嘘だよ。絶対ハッピーエンド」とまで分かってしまった)
 また、矛盾点もある。主役はジェイクなのかマークなのか。後者ならジェイクの場面をもっと少なくするか、予算があれば(思い切りなさそうだったが)映像を使うべき。どうして天国から逃げ出してまた人間になったら地獄に落ちるのか。死んでから死体を使って再生するにはどれぐらいの時間までならいいのか。マークの場合とルシアの場合と時間が違いすぎるのにルシアは「ああ、間に合ってよかった」といっていたが、それは死体があるかなしかの話なのか。特に、「ブートキャンプ」はくどいほど出てくる現代の設定なのに、登場人物が携帯電話を一人も持ってないのはそうとう違和感がある。92年くらいの設定なら分かるが。
 ナンバーはこれといって目立つのはないが、譜面が読める人はプログラムの曲を覚えてください、というところだろうか。(金子はまったく読めないので、プログラムをみながら口ずさんでいる人を尊敬してしまった)しかし、演出として主演者の弾き語りというのはいままでなかったし(弾くだけはあったが)、あれをされてはルシアでなくとも、ファンでなくとも「素敵」と思ってしまう。今後流行るかも。

 いろいろ書いたが、前方で観たせいか、非常に楽しい時間を過ごせたし、若手を中心とした宙組らしい全員の全力投球の舞台を観てすがすがしさを感じた。甘めに85点。

 北翔海莉。彼女の第一印象はCS放送で『シニョール・ドン・ファン』の新人公演を見たときが鮮明である。一言でいうなら「おぬしやるな」と思った。本役の紫吹淳のアクの強い役作りをコピーするのではなく、自分なりに工夫した役作りで、かなり違う主役像を打ち出していた。演技だけでなく、歌・ダンスもレベルが高く、それまであまり印象になかった分(芸名の読み方も知らなかった)、一気に「技巧派若手」のイメージが自分の中ではついた。その後の印象は『想夫恋』に飛ぶ。日本物の様式美に助けられるか、と思いきや、メイクからはじまって、様式に相当苦労している上に笛まで吹いて、それでも非常によく見えたので、「月組にいたほうが」とすら思った。さて、今回であるが、今までは歌・ダンス・演技とそれぞれのパーツごとに上手さをみせてきた路線が、役を通して表現することによってその実力を渾然一体させて観客を魅了する、スターへの脱皮を感じさせた。弾き語りは相当大変だったようだが、やっただけの値打ちは充分あり、である。演技は始めのジェイクのきざりようから、マークの魂を持ったところへの緩急・硬軟の対比がきいていて、客席でまたも「おぬしやるな」と思っていた。また上に書いた貸切元よいしょのアドリブまでできるとは意外だった。ジェイクはもともと、マークはロマンティストだから、かなりきざな台詞がおおい(実生活で言われたら薄ら寒い)のだが、ばちっときめていて、カーテンコールの挨拶との対比も面白かった。本当にブレイクした。

 少しまた脇にそれて、金子なりに「スター論」が書けると思うので書いてみる。「スター」、そして「主演男役」と呼ばれるには2通りあると思う。まず、容姿・歌・ダンス・演技の4要素のどれか1つが突出していて注目され、あとの要素はキャリアを重ねるにあたってレベルアップを図りいきつくところまでいくタイプ。実際はこちらが圧倒的に多いと思う。もう1つのタイプは4要素すべてにレベルが高く(最近では4つのうち超ハイレベルの得手を持つ人もいるが)、若手のうちはそれぞれの要素を観ていると上手いのだが、まとまってしまう。しかし、ある日、役を通して表現することによって「ああ、上手いな」と観客に思わせる、という壁をぶち破りスターになるタイプ。後者は圧倒的に少ないし、まとまったままで終わる人もいるのでなかなかスターとして出にくいのだが、北翔はこのタイプだろう。先日CSで北翔がミニディナーショーのような催しで、星組の安蘭けいの持ち歌を何曲か歌っていたのはレベルと学年差はあれ、妙に符合するところだった。

 和音美桜。彼女の武器は歌である。しかし、宝塚の娘役の場合、男役に対する女だから、上に書いた男役と話が違う。ヒロインとしての華、男役に寄り添う姿勢、など伝統におもねらなくてはいけない。ルシアは現代に生きる女性で、別に気が強いのではなく、2日間で思ってもいないことがあれこれ起こるから、喜怒哀楽が激しくなるだけである。怒るところはいいが、もう少し繊細な女心を表現できたらルシアという女性に観客が感情移入しやすくなると思う。ただ、最後のデュエットダンスでの表情は歌っているときと同じくらい豊かで、男役を立てる姿勢が見えていたので、このまま「正統派路線」の役を重ねたら、華も出てくるのでは、と思う。

 早霧せいな。颯爽とした闊達さで目を引いた。アイラに誕生日プレゼントする場面はアドリブを交えながら純粋な青年を演じていた。もう中堅。こういう人ほど小器用にまとまってほしくない。

 七海ひろき。マークのほうを受け持っているので、ほとんど一人芝居なのだが、健闘していると思う。もう少し男役として線が太いといいのだが。

 藤咲えり。男勝りで我儘なボスの娘なのだが、思い切って演じていたのでこれからの伸びしろを感じた。


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