雪組ドラマシティ「シルバー・ローズ・クロニクル」

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453. 雪組ドラマシティ「シルバー・ローズ・クロニクル」

ユーザ名: 金子
日時: 2007/10/16(14:53)

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雪組 シアタードラマシティ公演
10月15日→9列28番
「シルバー・ローズ・クロニクル」
 作・演出/小柳奈穂子

<解説>
 1960年代のロンドンを舞台に、ヴァンパイアの少女に恋をした青年の冒険と成長をポップにロマンティックに描いたファンタジック・ミュージカル。
 20世紀初頭、ロンドン。詩人のアラン・ジョーンズは、銀髪の少女ローズ・クレムと恋に落ちる。アランは自分の詩の映画化に当たり、ローズを主演女優とするが、実はローズはヴァンパイアであったため、ヴァンパイアハンターであるヴァン・ヘルシング教授に追い詰められ、姿を消してしまう。その後には、一厘の銀の薔薇が残されていた。
 それから半世紀後の1960年、ロンドン。アランの孫であるエリオット・ジョーンズは大手製剤会社「シルバー・ローズ・ファーマシー」の血液研究所の庶務課に勤めていた。早くに両親を亡くし、祖父に育てられたエリオットは、祖父の死後世間から心を閉ざし、ただ祖父の詩を映画化した「銀のばら」を観ることにのみ喜びを見いだしていた。
 そんなある日、エリオットの隣の部屋にアナベルと名乗る女性が引っ越してくる。驚いたことに、その少女は銀幕の中のローズに瓜二つであった。やがて二人は言葉を交わすようになり、エリオットは祖父の死後初めて自分を理解してくれたアナベルに惹かれていく。
 エリオットはアナベルをモデルに詩を書き、愛読雑誌「怪奇と幻想」に掲載される。詩は評判となり、人気アイドルグループ、「ラドルズ」のティム主演で映画化されることが決まる。エリオットはアナベルに自分の気持ちを打ち明けるが、アナベルは悲しく微笑むだけであった。
 そんなある日、エリオットは会社の上司ブライアンに声を掛けられる。実は、ブライアンはヘルシング教授の孫で、「シルバー・ローズ・ファーマシー」はヘルシング教授の作った会社なのであった。国防長官テリー・モートンと通じているブライアンは、アナベルとローズが同一人物であり、ヴァンパイアであることを見抜き、軍事実験材料としてアナベルをテリーに差し出すことによって更なる地位を得ようと企んでいた。
 ブライアンの策略によりアナベルは捕まえられてしまう。計画を知ったエリオットは、ティムらと共に、アナベル奪回の計画を立てる・・・・。

<メインキャスト>
エリオット・ジョーンズ(シルバー・ローズ製薬で働く青年)/アラン・ジョーンズ(詩人。エリオットの祖父):彩吹真央
アナベル・クレム<ローズ>(エリオットの隣の家に引っ越してきた銀髪の少女。実はヴァンパイア):大月さゆ
クリストファー・クレム(アナベルの兄):凰稀かなめ
ブライアン・H・アトリー(シルバー・ローズ製薬の社長)/ヴァン・ヘルシング(20世紀初頭に名を馳せた、ヴァンパイア・ハンターの博士):緒月遠麻

<感想>
 「どう考えても夢物語」

 始め、タイトルとポスターを見たとき「何をやるのだ?これは?」と思って、劇団公式HPの解説を読むと、どうみてもヴァンパイア風のポスターなのに主役は人間らしい。とすると・・・とこの時点で物語の結末がなんとなく読めた気がした。

 プログラムの小柳先生の言葉を引用すると「夢見る青年が、様々な経験を乗り越えて夢そのものになる。それは、まさに夢みたいな話ですが、そこに何らかのリアリティを与えること、それが今回のテーマといえるかもしれません。」とある。しかし、簡単に筋を書くと、ヴァンパイアを夢見る青年がヴァンパイアの少女に恋をして、年月を経た後、とうとうその思いがかなえられて、自分もヴァンパイアになる。個人的にはどう頭をひねっても、この筋ではリアリティはなにも感じられなかった。「夢物語」それに尽きてしまう。テーマがこの調子なので、1度観れば充分、と正直思った。

 例えば、主人公とヒロインは人間とヴァンパイアだから永遠に結ばれない、としておけば、主人公の夢多き青春からの決別、というありきたりのテーマが生じるのだが、一緒に昇天してしまっては、どうしようもない。今度再演される小池先生の『蒼いくちづけ』と男女逆になるだけで同じように感じた。改めてヴァンパイア物は難しいな、と思った。

 脚本の矛盾点もある。ハーフヴァンパイアとヴァンパイアはどうちがうのか?アナベルは夜しか出歩けないはずなのに、どうして映画の撮影を受け入れたのか?昼間の撮影はどうするのか?そもそもいかに夜とはいえ、あんな髪の色をしたイケメンの兄さんと、その妹が歩いていたらどうかんがえても目立つのでは?それとエリオットたちの「アナベル奪回計画」といいながら、あの場当たり的な方法はいかがなものか。

 衣装は予算がどうなっているのかわからないが、ちょっと考えていただきたい。まず、アナベルの服は統一性がなく、彼女の清純さとフィットしない。エリオットのほうも、あの会社での服装の青年ならいきなり赤のジャケットに飛躍しないのでは?紺とか宝塚的紫のほうが落ち着いた感じでいいとおもうのだが。結局満足がいったのはデュエットダンスの衣装だけだった。

 見所は彩吹真央の人物の心情をリアルに表現する歌と、凰稀かなめのクールというよりすかした格好よさがメインか。60点。

 彩吹真央。人なれせず、自分の世界の中に閉じこもっているが、本当は真面目で純粋な青年。観終えて、良く考えると、ほぼプロローグのアランのところとフィナーレ以外、「宝塚の二枚目男役の所作」がほとんど「禁じ手」となっているので大変だな、と思った。彼女はもう、男役として出来上がっているから、今回の設定でも「男役」として観られるが、下級生でこの役となると「男役」と「女の子が演じる男の子」の差がつかないのではないか、と思った。惜しいというべきなのか、一番説得力があったのは、年老いたエリオットの場面。この人ならではの落ち着きと男役の包容力でここはいきなりじーんときてしまった。歌は伸ばすところが聴いていて気持ちよく、多くのナンバーが純粋な心で歌われているのが伝わってきた。ただ、基本的にテクニックのある人なのでもう少し、ドラマティックな歌かあるいは曲調の変わった歌が聴きたかった。彩吹というと、どうしても固い役、身分の高い役、というイメージが強い。今回は毛色の変わったコメディー的な役だったが、これよりは『NAKED CITY』のカメラマンのほうがあっていたかな、と思う。今の2番手にうちに、守備範囲を広げられ、「代表作」といわれる作品に早くめぐり合って欲しいものだ。

 大月さゆ。娘役としての素質が高い人だけに、どうして人間に差別されるのかに苦しむ清純なヒロインをさらりと演じているように見えた。彼女の持つよさは声だな、と聴いていて思った。宝塚のヒロインに必要な声を持っている。また、役に合わせていろいろ工夫できる力を持っている。だから、娘役街道大ばく進しているのだな、とおもった。ただ、あの銀髪の鬘は1つしかないのか?なんかぞろぞろしていて清潔感がない。服に合わせて結ってみるとか。最後の地毛でのお団子スタイルのほうが美しかった。娘役が豊富にいる雪組においてこれだけやるとなると、もう行き着くべきところはすぐかも。

 凰稀かなめ。物語の核心にはいないのだが、印象に残る。もう少し出番があれば面白かったかも。

 緒月遠麻。じつはずいぶん長く生きているヴァンパイアで、いってしまえば悪役。押し出しがいいので「社長」といわれても違和感がない。歌詞がもっと分かるようになればいいのだが。

 あと、ティム役の蓮城まことのバンドの歌手の華やかさとクリストファーの手下にされるヴァージニアの愛原実花の浅はかなお嬢様振りがめについた。


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