[掲示板: ミュージカル一般 -- 時刻: 2024/11/25(04:26)]
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関西人にとっては楽しかったですが、東京で受けるのかな・・・・と素朴に思いました。
月組 宝塚バウホール
6月3日→か列9・10 (母と)
バウ・なにわ人情ミュージカル
「大坂侍」−けったいな人々−
〜司馬遼太郎作「大坂侍」より〜
脚本・演出/石田昌也
超個性的な登場人物、大坂人のパワーが爆発する痛快・娯楽時代劇。
さて、登場人物や物語を説明する前に、幕末・大坂の土地柄を説明しなければならない。 幕府の身分制度は当然「士農工商」なのだが、銭が物をいう「商人の町」大坂で豪商らは幕府のみならず・・・朝廷、薩摩の勤王派にまで金を貸し、「佐幕や勤王やとほざいても、ほんまに日本を動かしているのは、わてら大坂の銭だす」という誇りを持っていた。だから大坂で武士は江戸城下のように尊敬されず、ある商家では「うちのせがれは根性がないさかい商人には向かん、売りに出ている侍株でもこうて(買って)侍にでもせなしゃあないなァ」と事実上「商工農士」という身分の逆転現象が起きていた。大坂は幕府の天領(直轄地)だから、「大坂藩」というモノは存在しない。大阪城の「君主」は徳川の将軍なのである。つまり本作の主人公、貧乏同心・鳥居又七は徳川の家臣なのだ。
しかし時は幕末、大坂の侍の殆どは大坂生まれの大坂育ちだから、自分達が「徳川の家臣」だという自覚も忠誠心も薄い。それに又七は同心とはいっても十手捕り物の同心ではなく「川方同心」で、河川や土手の管理が仕事だから、「二本差し」といっても浪速の人々は又七を・・・今でいう・・・区役所の職員風に見ていた。だが又七は働き者、時に泥塗れになって人夫達と土手の補修工事にも手を貸した。跡取り息子のいない豪商・大和屋源右衛門は「ほんまに又七はんはよう働く、侍にしとくのはもったいない、出来る事なら、又七を婿養子にして、お勢と添わせ、店を継がせたい」と・・・あの手この手と、又七にぞっこんの我儘娘・お勢と共に、親子協力して「又七獲得作戦!」を実行・・・だが、又七は元来、喧嘩には強いが女には奥手の真面目人間。お勢からの関西風の攻撃的なプロポーズにものらりくらりと逃げの一手。お勢は又七の仕事場に突如現れ、「うちを嫁にしてくれへんかったら、この川に身を投げて死んだる!」と振袖の中に大きな石を詰め込んで川に飛び込むという事件を引き起こしたり、又七の子分格・極楽の政や剣術指南役・渡辺玄軒先生にも金を握らせ、「金の力」で強引に恋を成就させようとする。
だが時代は急を告げていた。大坂人とはいえ、又七は身分的には徳川の家臣「幕臣」である。又七は大坂を離れ、江戸・上野で官軍と対峙する「彰義隊」に組み入れられることになった。又七の運命は、また・・・お勢との恋は?(ちらしより)
<主な配役>
鳥居又七(川方同心):霧矢大夢
お勢(大和屋の元気娘):夢咲ねね
豆奴(又七にホの字の芸者):花瀬みずか
田中数馬(又七の妹・衣絵の許婚):青樹泉
天野玄蕃(黒門一家の用心棒):星条海斗
極楽の政(又七の手下)龍真咲
<感想>
「霧矢大夢の代表作に間違いなし」
初め企画を知ったときは「ああ、キリヤン(霧矢の愛称)で大阪物か。さぞかし面白いだろう」と期待は膨らんだ。一方、作・演出が石田先生となると「また、あのベタなギャグとかでるのだろうな」という心配もあった。
結論は初めに書いたとおりである。石田先生・ファンが望むようにキリヤンならではの作品になった。どう考えても、他のスターでは成立し得ない舞台だった。
しかし、観劇を終えて思ったことは「ただ楽しいだけだなあ」ということである。テーマとしては最後に師匠がまとめてしまうように、「大阪人が大阪人を否定して侍であろうとしたものの、結局大阪の土地・文化・財のなかに埋まっているしかない」という、主人公のアイデンティティー探しだろう。まあ、関西に住んでいる我々には納得できる話であるが、東京で受けるのかどうかはかなり疑問である。また「銭・カネ」という言葉が散々出てくるが、現在の大阪はそこまでお金お金といわないと実感しているので、ここは時代のギャップを感じた。しかし、1人以外「悪人」が出てこない芝居で、人間の「心の優しさ」を再確認できる内容であることは良かった。
それならいっそ、最後を悲劇にしてみたら「最後の侍の有終の美」でいいか、と思ったが、それはダメだ。石田先生の作品で土方歳三を主役とした『誠の群像』は土方の死で終わる。原作は読んでいないが、これと一緒になってはいけないから悲劇は無理だ。ただ、同僚に「お前は生きろ」というところなどかなりこの作品とダブる部分はあった。
話としては1つ1つのエピソードがあり、最後にオチということで、谷先生の落語シリーズと同じような印象を受けた。珍しいのは大阪弁が歌詞にはいっているということだろう。また、フィナーレもまるで洋舞で、星組の『さくら』とはまったく別のものに見えた。でも、こちらも目新しくてよかった。また関東出身の生徒さんにとって大阪弁の練習も大変だったと思う。85点。
霧矢大夢。水を得た魚のようでまさに独壇場だった。主人公は真面目で仕事熱心でけんかは強い。その上家族・同僚などに思いやりのある人物である。「出来すぎ」ともいえる人物だが女には奥手で気の効いた言葉一ついえない。その欠点に霧矢の品のいい芸風がマッチする。1幕最後の父親の遺書を読んで、東京行きを決意する優しさと意志のあることを示すところや2幕でのお勢にすがられても自分は死ぬ可能性が高いので「なぐってくれ」という無骨さなどどれをとっても完璧で、キリヤンならではの人物だった。今の彼女の立場において必要なのは「代表作」だと思っていたので、この作品は間違いなく主演男役へのステップになるだろう。ただ1つお願いするならば、歌詞が100%完璧に聴こえたらいいのにな、ということである。3年後くらいにはドラマシティで上演してそうだ。
夢咲ねね。我儘でお転婆な豪商のお嬢さんだが、勢いでつっぱしった感もした。もう少し優しさや弱さというものを出してもらえれば、愛すべきヒロインになったと思う。そこは脚本の問題かもしれないが。押すばかりではダメで緩急をつけることが必要だと思うが、まだ若手なのでこれからだろう。
花瀬みずか。こちらは粋な芸者でベテランの域のようにすら感じた。またカラオケで絶唱しているみたいな設定はあまり感心しないが、彼女の歌が久しぶりにたっぷり聴けたのは良かった。安定した実力の持ち主なので、大劇場でもっと活躍させて欲しいと思った。
青樹泉。頼りない主人公の義理の弟で、商人→侍→商人となった経緯のためにあらぬ罪で天野に人質にされてしまうという、いかにも大阪物らしい人物。青樹はいままで精神的に強い役のイメージが個人的にはあったのでなかなか面白かった。また衣絵とのラブラブぶりもなかなか。ただ、学年順に考えると彼女が天野役なのでは?と思ったが。
星条海斗。登場人物でただ一人の「虎の威を借る狐」の悪役である。初めのひねくれぶりから、官軍をかさにきてやりほうだい、そして主人公との決闘と見せ場はたっぷりだ。星条はタッパがあり、美声なので目立ったが、やはり時代物のこういう役は台詞の間というものが大切でそこが上手くいけばいいのにな、と思った。善戦はしている。
龍真咲。主人公の子分で「他人に可愛く取り入ればそれで生きていける」というモットーを体現できる容姿の人なので、役にぴったりだった。しかし、こちらもまだ今は勢い、という感じがした。
目だったのは、主人公の妹役の麻華りんか。石田作品ならではの思い切ったメイクをする根性も買うが、人物としては主人公の妹らしい純粋で明るい女の子で愛すべきキャラクターでよかった。
そして、専科の未沙のえる・箙かおるのお二人はしっかりしめるところでしめて芝居にメリハリがついた。
さて、この公演、東京ではどうだろうか?CSの東京千秋楽の放送は是非見てみたい。
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