宙組バウホール 「NEVER SLEEP」

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444. 宙組バウホール 「NEVER SLEEP」

ユーザ名: 金子
日時: 2007/4/14(21:56)

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 こんばんは。この内容なら星組大劇場にいっておけばよかったかな、と正直思いました。宙組ファンの方、お気に触ったらごめんなさい。

宙組 宝塚バウホール公演
4月14日→ぬ・17

バウ・ミュージカル
『NEVER SLEEP』
作・演出/大野拓史

<解説>
 探偵者特有の世界を背景に、決してハードボイルド的ヒーローではない等身大の主人公が、様々な出会いや別離、友情や恋愛を通して、自分なりの探偵像、生き方を見出していく物語。
 1928年。賭博王アーノルド・ロススタインや、夜の市長ジミー・ウォーカーが支配する、犯罪都市ニューヨーク。ハーレム。
 ピンカートン探偵社ニューヨーク支店の調査員サミュエルは、いかにも探偵という職業に相応しい(アメリカの私立探偵には刑事犯罪捜査の権限がある)犯罪都市にありながら、なんとも冴えない仕事ばかり担当させられていた。かつての相棒、同僚で年齢の近いマイルズが、スト破りや用心警護の成果で社に利益をもたらし、一目置かれる存在になっているのに対し、サミュエルには、浮気調査のような、評価の低い、興信所並みの仕事ばかりがまわされてくるのだ。
 その日の仕事も、そんな冴えない仕事の一つとしか、サミュエルは思っていなかった。実際、その仕事の相棒はニューヨーク市警の老警官ジェイムズで、要は非番のアルバイト(かつては非番時の探偵副業が認められていた)程度の仕事だったのだ。仕事の内容は、クラブの女性ダンサー、ブリジットの警護で、本人に気付かれないように、との但し書き付き。そうした依頼は以前からあり、その多くは一種の浮気調査にすぎなかった。サミュエルとジェイムズは、交代で尾行することを約束し、その日はジェイムズが尾行することになる。
 しかしその晩、サミュエルは探偵社からの電話で叩き起こされる。ジェイムズが殺されたというのだ。直ちに社に向かうサミュエルだったが、街はそれどころではない騒ぎになっていた。賭博王ロススタインが、何者かに殺されたニュースが舞い込んでいたのだ。そして、思いがけぬ疑いの目がサミュエルに向けられることになる。二つの殺人事件の現場が至近距離にあったのだ。サミュエルは、ひとまずマイルズのアパートに匿われることとなる。
 深夜、帰ってきたマイルズによると、ギャングを野放しにしていることへの市民の批判を気にする市警が、早期解決をアピールするため、手っ取り早くサミュエルを犯人に仕立て上げようとしている、とのことだった。となれば、真犯人を自分自身で探し出すほかない。サミュエルはマイルズの制止も聞かず、飛び出していく。それは自分自身のため、そして青二才扱いされているサミュエルをただ一人、まともに相棒として扱ってくれ、期待をかけてくれたジェイムズのためでもあった。
 手掛かりとなるのは、そもそも警護依頼しかない。そう考えたサミュエルは、警護の対象だったブリジットのもとへと向かう・・・・。(ちらしより)

<メインキャスト>
サミュエル・ハート:蘭寿とむ
ブリジット・オトゥール:美羽あさひ
マイルズ・グットウィン:七帆ひかる

<感想>
「歌っている暇があるなら説明してよ」

 消化不良、この一言に尽きて劇場を後にした。確かに大野先生の作品だから、時代背景・実在と架空の登場人物がプログラムに説明しきれないほど凝っていることは「想定内」としてみなければならないかもしれない。今回は、一見は「ジャズエイジ」の話だからフィッツジェラルドの時代ね、と鷹をくくっていては甘い。「ジャズエイジの政治と裏社会」などという本が出版されていたら予習しておかないといけなかったかもしれない。それほどポピュラーではない物語の背景だ、ということである。大野作品は日本物のころはだんだん作品世界が難しくなっていって(『睡れる月』など)、プログラムを読んだ段階でギブアップしたくなったのだが、洋物になって、前作『ヘイズ・コード』などはわりとすっきりしていたのだが、この作品を見るとまた難しくなるのか、と構えてしまう。確かに、脚本を書かれるにおいて、時代背景・登場人物に凝られるのは作者の自由である。しかし、観客すべてがついてこられるように劇中で説明するのが作者の義務ではないだろうか。一考をお願いしたい。

 たぶん、時代背景、主として実在人物についての説明の場面はあったのだろう。しかし、本筋は主人公の成長とヒロインとの愛だから、そちらも描かなくてはならず、話の筋がぶつ切れ状態である。観ていて話にのっていけない。なんとなく最後は主人公は好敵手と和解し、ヒロインと愛し合う、という定番にもっていってあるので納得するが、今回たくさん出てくる「取り引き」がどういうものか、市長・議会・闇の世界はどうつながっているのか、などいまひとつはっきりしないうちに終わってしまった。せめて最後の主人公がシカゴにいくことにするマイルズの取り引きの模様ぐらいは実際の場面でやってほしかった。

 また、主人公はジェイムズとロススタインの幽霊の力で活躍するが、ファンタジー色の強い内容ならともかく、幽霊という存在は探偵物にはいまひとつ説得力にかける。ジェイムズだけならなんとか許せるが、ロススタインなど生きているときの場面がひとつも無くて、ただの娘を心配する父親でしかない。また、前作に引き続きタップダンスの場面があるが、この間の花組大劇場のショーでも使われていて、少々タップは食傷気味である。

 1幕は事件の筋が見えてこないまま終わってしまうので、「コメディ?」と錯覚する観客もいたくらいで、探偵物なのだから1幕でもう少し事件の伏線を張っておくべきだろう。2幕は時間的にも長く、のれない。50点。大野先生次回作は原作のあるものでお願いしたい。そうすればこちらも「予習」できるから。(現在、この後の花組のために森鷗外「舞姫」を読んでいる)

 蘭寿とむ。探偵にあこがれて探偵社に入社したものの、たいした仕事はさせてもらえず、一人前と認めてもらえないさえない探偵で、どちらかというとやさしくて人がよく、それでも妹の前では兄貴顔をしたくなる、という主役としてはあまり格好のつけようのない役である。この脚本でがんばるのも大変だろうが、観ていると、「正統派主役」というものを目指してやっているように感じた。つまり、演技・歌・ダンスの3拍子が揃った主役像を意図している。蘭寿の持ち味は「パワフル」なのだから、べつに路線を変えなくても、それなりに自分の個性を追求すれば、行き着くところになっても大丈夫だと思うのだが。今回の役がソフト路線だからそう感じたのだろうか。歌においてはドラマ性を感じさせる歌になっており、歌唱力は向上している。

 美羽あさひ。いきなりコール・ポーターの名曲「♪私の心はパパのもの」(この訳詞は適切)から始まるのだが、全編を通して実力派だけに危なく思うところが無い。もう少し華があるということがないのだが。ブリジットは一見は気の強そうだが、素直で誠実な女性である。ロススタインの隠し子で混血児というマイナス要因を抱えながらも地道に人生を歩んでいる。父親への思いや、サミュエルへの思いなどストレートに表しながらも好感が持てる出来だった。

 七帆ひかる。マイルズは内部告発をしたことで、かつての相棒を殺してしまい、自分も辞職させられ、今は探偵としてサミュエルとは一段違う働きをしている。彼の過去や、ブリジットと初めは握手も拒否するところなど細かく描写されており、七帆は小道具として眼鏡を上手く使うなど、いわゆるクールで頭脳明晰な探偵像プラスアルファの人物を表現できていた。最後の和解も納得がいったし、歌も安定。やはり、1作主演をすると違うのだろうか、フィナーレでセンターで踊る姿に華が感じられた。

 あと、目だったのはキャロインに取り入るギャングのガットマンを演じた暁郷。背が高いのでドスが効いて存在感があった。

 最後に専科の方々を。
 萬あきらさんは、ひたすら怖くて格好いい。一樹千尋さんは、壮年の男性のいい渋みがこの方ならではの味。五峰亜季はショーガール出身、というところは感じさせるが、演技が一直線気味で専科でいられるならもう少し演技面の充実をお願いしたい。

 とにかく、時間さえあれば東京までに脚本をもっと整理していただきたいところ。はっきりいうが、今のところ今年観たバウでは一番期待はずれだった。


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