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435. 星組バウホール「Halllujah Go! Go!」
ユーザ名: 金子
日時: 2007/1/14(14:19)
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あけましておめでとうございます。新年一発目、なかなかいいものを観た気がします。
星組 バウホール公演
1月13日→へ・19
バウ・ミュージカル
「Hallelujah GO!GO!」
作・演出/稲葉大地
<解説>
ダンスコンテスト優勝を目指して懸命に生きる若者の姿をディスコ・ミュージックのテイストで描いた青春ラブ・ストーリー。未来に向かって突き進んでいく若者達の煌きが溢れる作品です。
アメリカの田舎町。学校を卒業してからというもの、これと言った目標も持たずに、ただ毎日を楽しく過ごしている青年デニス。彼の唯一の趣味は夜毎仲間達と通い詰めているディスコダンスである。
ある日、デニスはディスコ仲間から有名なテレビ番組が「ニューイヤーイブ・ダンスコンテスト」を開催することを知らされ、心を躍らせる。このコンテストにカップルで出場し優勝をすると、ダンサーとして番組と契約できるという商品が用意されている。刺激のない田舎町に飽き飽きしているデニスはこれに飛びつくのだった。
その夜、彼はいつものように仲間と連れ立ってこの町でただ一軒のディスコへと繰り出す。3ヵ月後にはここがコンテストの会場となり、そして、ここで優勝する自分を夢想して踊るデニス。そしてこの夜、彼は魅力的に踊る女性と運命的な出会いを果たすのだった。彼女の動きに合わせて踊るデニスは初めて息の会ったパートナーを得た感覚に酔いしれ、ただ踊り続ける。しかし、そんな彼の前に恋人であるモニカが遅れてやって来て二人は離されてしまうのだった。
その夜以来デニスは、結局話すことも出来ずに別れてしまった彼女のことを、毎晩のように踊りながら探している。そして恋人であり、一緒にコンテストに出場することを信じて疑わないモニカも、段々と彼が変わっていくことに気付き、落ち込むのだった。そんなモニカを励ますディスコ仲間のブライアン。二人の距離は少しずつ近くなっていく。
初めて踊った夜から一ヵ月、デニスの前にあの夜息を合わせて踊った彼女が現れる。二人は踊る。激しい音楽に息を弾ませ、話すことも忘れて踊る。そして時間は12時前。柔らかなチークタイムとなり、漸く彼女に話しかけようとするデニス。しかし彼女は慌てて帰ってしまう。またしても彼女の素性を知ることの出来なかったデニスではあったが彼は確信している。彼女以外に自分のパートナーはいないと。
そんなある日、思わぬ場所で、デニスは彼女と再会することになる・・・・。(ちらしより)
<メインキャスト>
デニス・ガルシア(夜毎ディスコダンスに明け暮れる青年):柚希礼音
ブレンダ・カウナー(デニスのダンスパートナー):陽月華
ブライアン(デニスの高校時代からの友人):和涼華
モニカ:蒼乃夕妃
ガイ(デニスの高校時代の同級生):綺華れい
<感想>
「青春の汚れのない勢いとエネルギー」
前段になるが、初め劇団公式HPで内容を読んだとき、「ああ、あの以前ちらっとみた映画『サタデー・ナイトフィバー』みたいな感じ?柚希礼音主演ならはまるかも、観たいな」と思っていたら、一般前売り即日完売ときた。1枚貸切公演で押さえておいてほっとしたのだが、その貴重な1枚が、金子のバウホール観劇人生で最高のいわゆる段上がり(へ列)センターが来て、もう新年1発目、期待まんまんででかけた。結果から書くと、行ってよかった。値段の元は充分取れた。
某スポーツ新聞にあったが、70年代の若者のディスコダンスが題材、となるといかにも宝塚で今まで上演されていそうなのに今までなかったのが不思議だ。青春ということでけがれない時代なのに。稲葉先生もデビュー作がこれだったら印象も変わったかもしれない。「アパルトマン シネマ」は出演者が充実したメンバーだっただけに、ストレートに作者の「若さ」がだせなかったのかもしれない。やはり、新人作家のデビュー作はバウでスタートすべきである、と改めて思った。
テーマは2幕ではっきりするが「人間はそれぞれお互いが支えあって生きている」ということだ。テーマだけは前作と一貫している。もう少しいえば、3年前くらいには大流行した「今そこにある幸せ」ということだろう。主人公は町を出て行かずに夢を息子に託す。日常に価値があることを主人公が気付く成長話というべきだろうか。
しかしそれよりもなによりも、青春真っ只中にある登場人物たちを、これまた演劇にかける青春真っ只中の出演者が演じることが一番魅力的だった。まだ上級生の完成品には至らないが、その爆発に近いような勢いにすがすがしさを感じた。みんなが生き生きとして見えた。日程的に余裕がありそうだし、二番手主演の作品なのだから、東京で上演しても人が入りそうに思った。
1幕は初めのディスコクラブのダンスシーンからのりのりであっというまに終わるが、2幕はブライアンの事件が起こってからデニスが逡巡するあたりの台詞にもう一工夫必要かと思うが、とても楽しい観劇時間だった。正月相場ということで90点。
柚希礼音。一番初め、客席側に振り向いたとき、「ああ、この人はめったにでない男役の逸材だ」と素直に思った。デニスは「町を出てビックになってアメリカンドリームをかなえる」といういわゆる「俺様」気質の青年だが、それは所詮「井の中の蛙」で、ブレンダとの出会い、ブライアンの事件などを経験したうえで、自分の環境を見つめなおすことが出来、ブレンダと一緒に暮らしていこうとする。柚希はデニスを演じているということが感じられないほど役と一体化して、違和感がなかった。また、歌のソロも堂々としていて、早くも2番手の座に着いたのはむべなるかなと思った。劇団はここからあせってはいけない。じっくり育てて、その立場になるときには、大輪の最高の花を咲かせるべくこれからいろいろ課題を与えていくべきだ。CSで最近ある組の新人公演のダイジェストの模様を観ていて、男役が小顔化のせいか、全体的に線が細く感じられて、いらぬ不安を抱いたのだが、柚希の最大のセールスポイントは線が太い男役が演じられることではないだろうか。CSでしか見ることができない下級生のころから「線が細い」と感じたことは一度もなかった。ダンス力が高く評価される人だが、線の太い男役は包容力にもつながり、この学年では貴重な存在だ。いい意味で星組の伝統を引き継ぐだろう。
陽月華。宙組主演娘役になるのではっきりいってしまうが、彼女にはどうも「お嬢様」「貴族令嬢」「貴婦人」といった役に必要とされるふわりとした感じや、楚楚としたところがあまり感じられなくて、『フェット・アンペリアル』はそれを逆手に取った設定のヒロインだった。このままでは主演娘役は難しいと思っていたところだったが、なんとか間に合った、という感じである。ブレンダは敬虔なクリスチャンであり、また固い考えの母親に育てられたことで、考え方がしっかりしている女性である。始めのディスコにお忍びで現れるところはダンス力がものをいって魅力的だが、身元が分かってからのブレンダの言動には「きちんとしたところのお嬢さん」という清楚な感じがした。演技には昨年から飛躍が見えるが、やはり歌唱力の向上と髪型の工夫は継続して欲しいところだ。
和涼華。ブライアンは家族の事情を抱えているので、「俺様」のデニスと対照的で誠実な青年である。なんとか告白してパートナーになったモニカにダンスを通して「こうしたら」といわれるのだが、それは他の踊っている若者と違った、妹の病院資金、という切実な問題があるからそうそう変わることは出来ず、ついにガイの手先になってしまうのだが、その事件を通して人とのつながりを学んでゆく。和は柚希と違う味を出したが、どうしても柚希の隣に立つと線が細く見える。ダンス・歌・演技のどれも平均点以上の人だが、やはり新人公演が終わったこの辺で、「個性」というものを強く打ち出していくべきだろう。悪役など、個性的な役が回ってくるといいのかもしれない。
蒼乃夕妃。モニカはデニスのダンスパートナーを解消されるが、意地の悪い女の子などではなくて、きちんと勤めているだけに、物事の順序を追って片付けていくタイプの子である。蒼乃はデニスにいらだつところや、ブライアンに病気の妹がいることをしって「ごめん」というところや、「もっとこうしてくれたらダンスの息が合うのに」というところなど芝居が自然だった。娘役らしい雰囲気を持った人であるので今後が楽しみだ。彼女もまた陽月と同じく、研鑽すべきは歌と髪型か。
綺華れい。もう一人とつるんで、どうやらギャングの手下のようなことをしているようだが、ブライアンを巻き込んだとき「あいつはなんでもないんだ、釈放してやってくれ」という、本物の悪党になれない人物。なぜガイが悪い仲間に入ったのかが書かれていないので熱演しても説得力がないのがかわいそうだが、その美貌のためよく女役が回ってくる綺華であるが、男役として黒い役もこなせている。
最後に許容範囲の広いシスターからフィナーレのダンスへの変身ぶりが鮮やかだった、稲葉作品には常連になりそうな専科の千雅てる子さん、組長を始めとする星組上級生が芝居に厚みを加えてくれていることはいうまでもない。
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