星組ドラマシティ「ヘイズ・コード」

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宝塚星組　シアター・ドラマシティ公演

12月16日→14列20
12月24日→2列22

「ヘイズ・コード」
作・演出／大野拓史

＜解説＞
　ハリウッドの自主検閲規定「映画製作倫理規定（ヘイズ・コード）」の「厳密なる」遵守から生じる混乱を背景に、ヘイズ・コードの監視を仕事とする主人公と新人女優の、互いに反発しながらも惹かれあっていく恋の顛末を描く、スクリューボール・コメディ。

　1930年代後半、ハリウッドの撮影所。キス・シーンの撮影が行われているが、繰り返されるＮＧ。熱演すればする程、キスの時間が延びてしまい「３秒」を越えてしまうのだ。「３秒」を越えるキスは「過剰な肉欲的なキス」として、「映画製作倫理規定Ⅱ－２－ｂ」に基づき、禁止されている。秒数を計るのはウッドロウ。ＰＣＡ（映画製作倫理規定管理局）から派遣されたオブザーバーである。彼が告げる「３秒を越えました。このカットは使用できません」の声は、撮影スタッフの怨嗟の的となっていた。
　そんな中、新人女優のリビィだけは、単身ウッドロウの家へ抗議に向かう。熱演のあまりＮＧを連発した姿をプロデューサーに見咎められ、役を降ろされたばかりだったのである。折しも、ウッドロウの家では、ウッドロウの婚約者ミルドレッドと、共和党の政治家であるその父を夕食に招いていたところだった。男前のウッドロウにあからさまにメロメロな様子のミルドレッド。そこへ怒ったリビィが登場。「ルール」だから仕方がないと譲らないウッドロウだったが、リビィは勿論納得しない。そればかりかリビィは、「３秒」が長くないことを照明するために、ウッドロウに「３秒」以上のキスを見舞ってみせる始末だった。
　翌日、役を降ろされたというリビィの話が気にかかったウッドロウは、かつて学友だった映画監督カールトンのもとを訪れる。降ろすつもりはないというカールトンの言葉に安心するウッドロウ。撮影に復帰したリビィは相変わらずウッドロウの仕事に喧嘩を売ってくる様子だったが、彼が公平な判断者であることを認めるようになっていた。ウッドロウもまた、芝居にすべてをかけるリビィに敬意を抱くようになっていた。いかし、ウッドロウとリビィが、「より熱烈に見える抱きしめ方」を議論していた時、間の悪いことに、ミルドレッドが現われる。怒って帰ってしまうミルドレッド。
　数日して、カールトンが暴漢に襲われ入院したという知らせが、ウッドロウのもとに届く。娘の悲しむ姿を見たミルドレッドの父が、撮影を中止に追い込み、リビィをウッドロウから引き離そうと仕組んだことだった。失われたチャンスに心折れそうになるリビィ。
その姿を見たウッドロウは、ある決心をする・・・・。（ちらしより）

＜メインキャスト＞　（プログラムより抜粋）
レイモンド・ウッドロウ：安蘭けい
リビィ（オリヴィア）・フォンティン：遠野あすか
ラルフ・カールトン：立樹遥
ヘンリー・リッチ：涼紫央
ミルドレッド・マカドゥ：琴まりえ
ラレイン・ウッドロウ・リッチ：南海まり

＜感想＞
「余裕の船出のはずが・・・」

　正直、何から書けばいいのか困る。やはり、悪いほうから書かざるをえないのだろう。

　これを読んでいただいて「金子よ、お前は平生から安蘭けいのファンだといっておきながら書くのか。真のファンか」と思われるかもしれない。しかし、事実はいかようにも動かしがたい現実であるから仕方ない。まず、16日は初日の次の日で稽古場の調子もよさそうだし大いに期待して行った。しかし、開幕して異変があるのがすぐ分かった。主演の安蘭けいの声の調子が悪いのである。特に低音がかすれ、普段の硬質な美声がなかった。そのまま終幕したのであるが、隣の方は「かわいそうになあ、主役はかわられへんもんなあ」と泣いておられた。金子も泣きたかった。なぜ、この期に及んで・・・という気持ちでいっぱいで、ほとんど観た気がせずに16日は終わった。そして、24日はその後の様子など、出来る限り知人・友人から聞き込んで、ある程度覚悟して行ったのだが、台詞の声はなんとかだったが、歌が２曲だけになり、安蘭の「売り」がほとんどない状態だった。思い起こすと、安蘭という人は今まで怪我や病気による休演というものはなかったと思う。だからアクシデントと捉えたい。これが自分として納得できるぎりぎりだ。ご本人が一番お辛いだろう。しかし、一般演劇ファン、また安蘭以外のごひいきを持つ一般宝塚ファンからもどういわれるかは分かっている。
　
　だから、「責任の履き違え」といわれてでも劇団に一言言いたい。なぜ、匠ひびき、去年の和央ようかのように、大阪だけでも休演か、４・５日空けて代役公演に持ち込んでくれなかったのか。万全の状態でない主演者に対してプロの劇団が一切説明せずに公演を進める。これはあるべき姿なのだろうか。「せっかくトップになったのだから」という温情より、説得してでも休ませて欲しかった。大体、ドラマシティはあのキャパシティで全席7000円というのはどうしたものか、と普段から思っているし、その上歌をカットすれば上演時間の短縮である。7000円の値打ちはどんどん落ちていく。どうしても払い戻したくなければ、やはり代役公演を行うのが妥当だと考える。よく言われているが、宝塚というソフトは筒いっぱいなのである。雇用主である劇団はもう少し雇用者に優しいスケジュールを取ることができないのだろうか。今回は昨年末に続いて今後の劇団の体質も問われることかもしれない。

　さて、内容に方に入るが、全員に役名がついていることからも、登場人物が多彩で、それらの脇筋があり、また「ヘイズ・コード」は政治の世界も関わっているのだ、という説明もあり、主人公とヒロインの恋模様が余り書き込まれていない感じがして、全体的に散漫な印象がはじめは残った。むしろ、「ヘイズ・コード」のせいで撮影所の人々がどたばたせざるを得なくなり、その番人である主人公と反目するヒロインがいつしか壁を乗り越えて愛し合う恋模様をじっくりみたかった。しかし、こうすると「ラブ・コメディ」になってしまい、洗練されたといわれる「スクリューボール・コメディ」ではなくなるかもしれないが。

　それといわゆる「オチ」であるが、主人公に役者の経験があるという設定ならば、やはり最後は「家柄なんてどうでもいい。義姉さん、金のことは任せるよ。リビィ、君の相手役は俺がやる」とするほうが、主役として納得できるし、次の大劇場につながるし「お後がよろしいようで」となると思うのだが。映画監督になるのはいまひとつ大阪人としては収まりが悪い気がした。

　しかし、クラブの名前に次の星組バウホール公演のタイトルをつけるのはかまわないと思うが、劇中劇が次の星組大劇場を先にフィーチャーするのはどうしたものだろう。演出家の間で了解がなされているのだろうか。個人的には３月にとっておいてもらいたいところだ。

　しかし、24日はだいぶ芝居としてリズムがあり、全編を通しての軽やかなタップの響きがハッピーエンドにふさわしく、往年のアステア＆ロジャースの白黒映画がカラーになったようで楽しかった。点数は、東京公演をご覧になった方につけていただきたい。

　安蘭けい。上流の家柄の出身で堅物のお坊ちゃまで融通の効かない人物だが、役者をあきらめた過去があり、彼なりにPCAに所属することで妥協点を見出しているのだが、ルールにくってかかるリビィが現れて・・・最終的に新しい道を歩み始めることになるという人物。あまりの頭脳明晰さなど少し間違えれば嫌味なヤツだが、融通を効かせないといけなくなると困るところや、リビィに「寒々しい」といいながらも上着を貸してやるところなどのさりげない優しさなど演技としては余裕だった。タップも何度も舞台で披露しているだけにお上手。

　遠野あすか。ちょっと鼻っ柱が強くて、向上心があり、明るく素直な女性。いかにもアメリカンガールというヒロインだが、遠野はいままでの演技とまたがらりと変えて、からりと演じていた。パンツスタイルもお似合いで、これほどの人材を専科のままにしておいたら劇団は損失だった、と思わせた。

　立樹遥。主人公の友人であるところから、直接ルールに文句を言うところもよかったが、むしろ足に負傷して、仕返しをすぐにしようとするジョニーにやめるように諭すところは人望がなければできない映画監督らしい篤実なところがあってよかった。

　涼紫央。財団の坊ちゃんでそのときだけよければOK、という人物。撮影所にも遊びに来ているような感じで、少し役不足のような。

　琴まりえ。典型的な金持ちのわがまま娘という設定だが、主人公をひたすら崇拝し、父親のダークな面もまったく知らない、超お嬢様。犬嫌いなところや、ぶりっこぶりもぶっ飛んでいて楽しかった。

　南海まり。財団の理事長であるのに、簡単に催眠術にかかってしまい一騒動起こしたり、夫の浮気を疑うものの最後は人前ではばからず愛し合うなどちょっとエキセントリックな役柄である。しっかりしたところとそれ以外とのギャップが面白くてよかった。

　あと、主人公の兄の祐穂さとるが政治家としては潔癖なのに、妻の前ではめろめろなのがこれまたギャップがあって面白かった。また、水輝涼が線の太い男役像で目に付いた。最後に羽桜しずくが可愛い顔をして党の政策を主人公の兄に迫る秘書で舞台度胸のよさを感じた。

　ＤＶＤは東京で録画するのだろうか。年明けにはよいニュースが聞けることを心待ちにしている。