宙組大劇場　「維新回天・竜馬伝」「ザ・クラシック」

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　美しいということは何をも黙らせます・・・。ショーはそれにつきました。

宝塚大劇場　宙組公演　
11月26日→２階８列81
12月3日→１階11列61

幕末青春グラフィティー
「維新回天・竜馬伝！」　－硬派・坂本竜馬Ⅲ－
　作・演出／石田昌也

＜解説＞
　徳川幕府の政策に不満を持つ薩長肥後・西南大藩の志士たちは、朝廷を中心とする新国家建設に乗り出した。鎌倉幕府より700年続いた「武士」の時代は終わりを告げようとしていた。
　土佐の郷士（下級藩士）、坂本竜馬は剣術修行のため、江戸の北辰一刀流千葉道場に遊学していた。黒船来航以来、外国人を日本人から締め出す「攘夷論者」だった竜馬は、開国論者の幕臣・勝海舟を斬りに行くが、逆に勝の進歩的な考えに共鳴して弟子入りしてしまう。この心変わりに道場主の重太郎は竜馬を破門してしまうが、これは竜馬を一介の剣士で終わらせるにはもったいない、「日本を改革する男」と見込んでのことであり、また竜馬に思いを寄せる妹・佐那子の恋心を断ち切らせるためでもあった。
　江戸から京に出た竜馬は、勝海舟と共に神戸の海軍操練所で操戦術を学び始め、伏見・寺田屋の養女・お竜とも恋が芽生え始めていた。しかし京は、幕府が討幕派を駆逐するために結成した新撰組と薩長との間で争いが絶えない都となっていた。「同じ日本人同士が殺し合いなどしていては、日本は清国のように欧米列強の属国となってしまう」と危惧した竜馬は、西郷隆盛に私設海軍兼貿易会社の海援隊を作りたいと資金援助を申し出る。そして「今こそ犬猿の仲の薩長が軍事同盟を結び、一致団結しなければ幕府は倒せない」と盟友・陸援隊隊長・中岡慎太郎の協力を得て薩長和解に奔走する。しかし薩摩の西郷隆盛、長州の桂小五郎は、藩への拘りとプライドから同盟を結ぼうとしない。竜馬は新政府が樹立した後も「徳川家」を断絶させず、新政府に参加させるべきだ、という構想を持っていた。これは「敵を殺すと、潰すとでは意味が違う。殺せば遺恨が残り内戦になる。無血革命を以って新国家は建設されるべきじゃ、敵は殺さずとも、力を奪えばそれで充分、人は生かしておけば必ず役に立つ日が来る！」との竜馬の柔軟な考えが受け入れられないためであった。桂は竜馬に「一体アンタは幕府か、薩摩か、長州か、土佐か・・・・どこの味方なんじゃ！」と詰め寄るが、竜馬は「わしゃ、日本の味方ぜよ！」と切り返す。
　竜馬は勝海舟の計らいで、敵である「十五代将軍」一橋（徳川）慶喜に接見していた。慶喜は「徳川御三家・水戸藩」の出身であったが、元来水戸は「勤皇の家系」で有栖川宮家から皇女を娶る等、朝廷と姻戚関係が深い藩であった。「水戸は武臣とはいえ、代々勤皇の家系、将軍の政権はあくまでも京都朝廷より委任されたもの、徳川と朝廷の間に万一諍いのある時は、朝廷に付くべし！」という「水戸学」を学んだ将軍であったのだ。竜馬は驚いたが、慶喜は「徳川は政体が古すぎる。誰が将軍になっても、もう・・・・うまく行かぬ。幕府にも竜馬・・・お前のような気骨のある家臣がおったらな・・・・」とつぶやいた。
　大政奉還が成り、無血革命は成功に終わったと思われた。日本は新しい船出をしたのである。そして新撰組の寺田屋襲撃から機転で竜馬を救ったお竜と竜馬の恋は急速に深まり、祝言の日取りも決まった。しかし、あくまでも「武力倒幕」を目指していた勢力から、竜馬と中岡は命を狙われることになった・・・・。（ちらしより）

＜メインキャスト＞
坂本竜馬（維新の風雲児と呼ばれた土佐脱藩浪人。海援隊隊長）：貴城けい
お竜（伏見の船宿・寺田屋の養女。後に竜馬の妻となる）：紫城るい
中岡慎太郎（土佐脱藩浪人。陸援隊隊長）：大和悠河
徳川慶喜（徳川幕府十五代将軍）：蘭寿とむ
桂小五郎（長州藩士。後の木戸孝允）：北翔海莉

＜感想＞
「展開が速すぎるよ」

　１回目観たときは上のように思った。なにしろ出てくる人物すべてが、「歌劇」座談会で言われていたようにドラマの主人公になりえる幕末の志士ばかりであり、竜馬に対してそれぞれが関係すると「ええっと、○○＜人物名＞。○○した人で、後に○○になった人だよね」と幕末日本の歴史をおさらいしたくなる。そうしているうちに物語はどんどんすすんでいってしまう、というのが実感であった。受験ではないが「坂本竜馬半生早分かり」の漫画でも読んでいるような感じであった。

　もともとは２幕ものである。そこを１時間３５分に収めたのだから仕方ない、目の前で繰り広げられていることだけに集中しよう、と思い、枝葉の余分な知識（もちろんたいしたことない）を切り払って２回目を観たらまあ割り切れた。

　しかし、お竜を除く女性たちの動きは大幅にカットされているから、娘役さんはしどころがなさそうに思えた。それよりも一番気になったのは、筋の展開がほとんどを占めるので、幕末の志士、そしてなによりも竜馬の精神性というものが前２作ほど描かれていなかったのが残念だ。個人的には、ドラマシティ版での、海援隊でいじめによるような自殺事故があってそれを悲しんだ竜馬が「『優秀』という字には『優しい』という字が含まれているぜよ」というところなどがカットされたのは残念だ。現代世相にも充分訴える竜馬の心だったのに。（ＣＳなどで復習していないので、間違っていたらすみません）

　曲はあえて、新曲を主題歌とせず、亡き寺田先生の曲をそのまま使ったことは説得力がありよかったが、一方他の先生の曲との差も感じた。
　最後に、バウホール、ドラマシティ、大劇場と劇場は格上げの一方であるが、やはり石田先生ならではのベタな笑いはこれくらいなら我慢しなくてはならないのだろうか。75点。

　貴城けい。真矢みきのアクの強いカリスマ性がある竜馬に比べて、人物として大きく、どことなく愛嬌があり、愛されずにはいられない竜馬像を創りあげた。正直、貴城で日本物なら正統派の、例えば彼女お気に入りの『紫子』などのほうが、じっくり腰を落ち着けて観ることができたような気がするが、これは退団とローテーションの問題だから仕方ない。人懐っこい場面もあれば、涙を流して西郷と桂を説得する場面、真剣に手紙を読みながら日本のことを考える場面、とそれぞれの場面をいとも簡単に切り替えてやっているように思えた。舞台にさわやかな風が駆け抜けた。

　紫城るい。竜馬のことが心配で心配でたまらないのに、彼は日本のことに奔走していて、自分のほうに振り向かせたい、振り向いて欲しい、という女心を婉曲な表現ではなく、ストレートに言う女性。こういう思いをはっきり述べる女性だったから竜馬は愛したのだろうな、と思えた。白無垢姿も綺麗だった。

　大和悠河。銀橋でのソロもあり、竜馬の盟友なのだが、はっきりいうが余り印象に残らない。竜馬に比べて一本気ないわゆる体育会系の人物だが、幕末のビックネームでないせいか、竜馬とあまり行動を共にしないせいか、ぴんとこなかった。ただ、月組でやっていた頃の日本物のお化粧は彼女の美しさを引き立たせているように思えなかったが、今回は久しぶりの日本物なのに格段に良くなっていたことは安心だが。

　蘭寿とむ。最後の武家の頭領として徳川の最期への愛惜の念もありながら、大政奉還の決断を下す「切れ者」であり、気概に溢れた人物。２階席から観ていても非常に存在感があり、なかなか立派だった。ソロの初銀橋の歌も余裕あり、に観えた。最近の彼女は１作１作の成長が著しく、「次はどんな舞台を」と観客に思わせる勢いが続いている。

　北翔海莉。桂は長州の高潔な理想を持つ志士だが、高潔なだけにプライドが高く、竜馬に説得されるまでは、薩長同盟も乗り気でない、という堅い人物。しかし、劇中では変装して逃げる場面もあり、その変装をほとんど意識していない言動には大笑いさせられた。彼女にはまだまだ「伸びしろ」がありそうなので、今後が楽しみだ。

　全体的に観て、もう少し人物を通してテーマとか、現在に通じるものが感じられたら良かったと思うのだが。最後に勝海舟の立ともみさん、西郷隆盛の寿つかさ副組長はさすがベテランの芸で舞台で確かに２人が呼吸しているように観えた。

グランド・レヴュー
「ザ・クラシック」　～I　LOVE　CHOPIN～
　作・演出／草野旦

＜解説＞
　浪漫主義を代表する作曲家ショパンが生んだ数々の名曲を中心に、華麗で荘厳なクラシック音楽の世界をレヴュー化。
　ピアノの詩人と呼ばれたショパンの「幻想即興曲」「革命」「別れの曲」など、夢見るような美しい旋律にのせて、観る人を優雅で気品に満ちた世界に誘う“ザ・クラシック”。
　現実を超越する永遠の世界を夢見た浪漫主義の香りが漂う、宝塚歌劇ならではの華麗な作品。（ちらしより）
　
＜感想＞
「宝塚のプリンス役者、貴城けいの魅力全開」

　よく旅行先などで「宝塚歌劇がある宝塚市から来ました」と自分のことをいうと、「宝塚ってどういうもの？」と聞かれることがある。これは返答に困るのである。「90年以上の歴史がある」と堅くいうべきなのか、「男性だって結構観劇している」と事実を言うべきなのか。しかし、このショーを観て結論が出た。「キラキラしている」。これで充分だ。

　今回のキラキラ、それは間違いなく、サヨナラ公演の主演、貴城けいである。彼女の衣装はどれも素晴らしく、それを次から次へ着こなしてゆく彼女はなにをしても「プリンス」以外の言葉は当てはまらない。それも、身分を隠して市街へ出てゆき、村娘と恋に落ちるようなプリンスではない。深い森の奥の誰も知らない城の中でひっそりと恋人が来るのをを待ち望んでいる孤独で近づきがたいプリンス。確かにショーの中ではいろいろ役名がついているが、どれもプリンスに観えてしまった。ここまでみせてもらったら「目の保養」以上の堪能だ。「現実を超越した永遠の世界」という草野先生の狙いは見事達成されている。金子もいろいろな人を観ようとしたが、２回とも貴城に見ほれてしまった。

　ショーとしては、別にこれといった斬新な点もなく、ひたすら「貴城プリンス」をみせることになっていた。ただ、「♪別れの曲」からあとのフィナーレの部分の大和悠河の贈る台詞や「この曲を聴いたら私を思い出してください」というのは、少しサヨナラを意識させすぎるきらいがあるように思う。歌詞だけで充分分かると思うのだが。

　しかし、宙組は、あえていうが、偉大なる和央ようか＆花總まりの後が、１作だけで「プリンス」が売りで、さて次の大和＆陽月華コンビの売りはなんだろうか、と考えるとまだ見えてこない。新作より、あえて宝塚的忠臣蔵『風と共に去りぬ』などで作品の力を借りてみたほうがいいのかもしれない。
　

第２～４場　プロローグ（セレブレーション）
　いきなり、軍服とドレスで勢ぞろいである。さっきまで日本人を演じていた人達と同一人物に見えないくらいだ。最初にして最後のセンターに立つ白い軍服の貴城の美しいこと！これ以外の言葉が要るだろうか。完璧に独壇場である。

第６場　オーパス66
　大和扮する青年が、はじめは可愛いポピーの精たちと戯れていたのに、大きい精がでてきて、最後に組長さんの妖女に絡めとられてしまう、というあまり趣味のいいとは思えない場面。何度も再演されている、岡田先生の「デイジー花咲く丘」のコピーのようにも思えるし、男役さんにああいう格好はどうかと思う。
　しかし、この場面、発見があった。最近は演出上、１階席へはスターが降りてくる、いわゆる「客席降り」の場面が増え、正直あれをやられると、２階席にいると「ああ、２階は蚊帳の外か。拍手するのやめた」となる。その影響か、２階を見てくれないスターさん、急増中である。かつて東京・大劇場とも３階席があるときは「３階！」といってウインクを飛ばしてくれるスターさんもいたものだが、昨今の２階は寂しい。しかし、大和は２階をちゃんと意識しているスターなのである。２階に向かって手を振り、ウインクする。その前に１階最前列を見つめていた反動か、と思うのはこれまた寂しいのでやめにするが、次の主演者にそういう意識があるのはうれしい。平日の空席があるときでもやってくださいね。

第７・８場　夢のあと
　友情を育んだ同士のむなしい結末。蘭寿の苦しみ方もいいが、貴城のはかなさがまた引き立つ。

第10～13場　冬の庭園
　中詰めだが、少し面白い設定。あれだけばりっと燕尾を着こなしておいて崩すアンバランスさがなんとも。もちろん、貴城の早変りも見所。
　ラインダンスでの北翔海莉の歌とダンスはのびのびとしている。

第15・16場　別れの曲
　ショパン→「♪別れの曲」→サヨナラ公演、と単純に連想できた場面だ。大和のジョルジュ・サンドは思ったより（失礼！）可愛らしい。ビジュアル的には最高潮の場面である。でも、この曲が流れるとだんだんサヨナラを意識せざるを得なくなる。

第21～23場　フィナーレB・C・D
　また軍服がでてくるのは勘弁してもらいたかったが（白燕尾はいかが）、まあ男役揃ってプロローグと共に壮観だ。
　そのあとのデュエットダンスも紫城るいのやわらかさがよかった。最後の「♪虹色の空」は歌詞がよくて、１階席で観ていると照明が美しくて本当虹の中にいるような気分になった。
　エトワールの和音美桜は満を持しての登場であり、流石の歌声だった。

　舞台とは「現実からの逃避」の目的が多かれ少なかれ観客の我々にはあるのであるが、55分、本当に現実を忘れました。90点。

宙組大劇場 「維新回天・竜馬伝」「ザ・クラシック」

宙組大劇場　「維新回天・竜馬伝」「ザ・クラシック」