雪組バウホール「やらずの雨」

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425. 雪組バウホール「やらずの雨」

ユーザ名: 金子
日時: 2006/6/26(14:40)

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 この「落語シリーズ」、5作はやりたいと谷先生が新聞で語っておられましたが、落語のネタが尽きるまでやったら何作になるのだろう、と変な心配もします。あまり上手く書けませんでした。

雪組 バウホール
6月25日→ろ 32

バウ人情噺
『やらずの雨』
脚本・演出/谷正純

<解説>
 柳橋の船宿「笹屋」を舞台に、江戸落語の主人公たちが夢に翻弄される姿を描いた、笑いと涙の物語。「お初徳兵衛」を骨子とし、「佃祭」「唐茄子屋政談」などの人情噺、「芝浜の皮財布」「夢金」などの<夢>を題材とした噺が、巧妙に絡み合い、人の情けの温かさを描く。
 深川の材木商・伊勢屋の若旦那・徳兵衛は、根っからの道楽者。柳橋界隈を縄張りに、放蕩の限りを尽くしていた。一人息子可愛さに、徳兵衛の道楽に目を瞑ってきた父親・甚兵衛も、遊びが激しさを増し、果ては店の金に手をつけるようになっては黙ってはおれず、何とか改心してくれればと、一縷の願いを託して、勘当を言い渡した。
 勘当されても強気な徳兵衛は、家を飛び出す。だが、金の切れ目が縁の切れ目。仲間の芸者・幇間も、一日二日は居候させてくれるが、決まったように三日目からは冷たい態度。行くあてのない徳兵衛に残された道は、身投げ・・・・柳橋から身を投げようとする徳兵衛。そこへ現れたのが、柳橋芸者で徳兵衛とは幼馴染のお初。徳兵衛は喜ぶが、父親が改心させようと勘当したことを知っているお初は、心を鬼にして、徳兵衛を扱う。
 翌日、徳兵衛の前に唐茄子が入った籠と天秤棒が置かれていた。「自分の力で稼いでいらっしゃい」というお初の勢いに押され、徳兵衛は天秤棒を担いで表に出るが・・・・。(ちらしより)

<主な配役> (プログラムより抜粋)
徳兵衛(深川の材木商「伊勢屋」の若旦那):音月桂
お初(深川の芸者):純矢ちとせ
一八(幇間):彩那音

<感想>
 「3作続けるのは難しいなあ」

宝塚と落語のコラボレーションシリーズ第三弾、ということで前の2作がとても面白かったので期待して出かけた。このシリーズの特徴は3つあると思う。

 まず、登場人物がある意味ほとんどエキセントリックで、いわゆる「普通の人」があまり出てこないこと。この世の中、それは稀に「あなた様はすばらしい」という、人格ましてや容姿をお持ちの方はいるが、われわれ一般人はそれなりに欠点を持ち合わせているものである。その「欠点」は「個性」という言葉と表裏一体をなしていることがこのシリーズを観ているとよくわかる。その「欠点だらけの人物」(プログラムより)が舞台ところ狭しと活躍するから、われわれも親近感を持ちやすく共感しやすい。

 つぎに、落語からネタをとっているし、登場人物が尋常でないので、話の流れやおちが「そんな都合のいい」ということでも納得してしまうのである。これが普通の人間がおりなすならあまりにもフィクションがすぎて、「こんなことあるか」と白々しくなるだろう。(顕著にそう思ったのは『青い鳥を捜して』04年 雪組大劇場)このシリーズの場合は、出てくる人間が常識の範疇を超えているので、「そんなこともあるか」、とある意味「日本物ファンタジー」で気分良く終幕するのである。

 そして最後にこのシリーズは主演者が八面六臂の活躍をしなくてはならないということである。主役が話をまわし、他のみんなを巻き込んでゆくのだから、台詞は膨大で、大変だ。

 さて、今回であるが、正直に言って前2作ほど「抱腹絶倒」というわけにはいかなかった。理由は、やはり登場人物がわりと普通なことと、筋や心情などが普通の芝居のように書かれているからだろう。前者の顕著な例がヒロインのお初で、『くらわんか』(05年 花バウ)の奥さんに比べればしごくまともな女性である。また、後者は特に2幕に入ってから主役二人の恋など「わりと普通」といってしまえるところがあった。最後のおちだけ落語と同様にありますよ、という感じ。この流れはたぶん「大劇場進出」(毎日新聞夕刊より)を目指しているからか、と思うが、大劇場なら95分だろうから、テンポよく、観客を笑わせればいいから、今回の2幕はおまけだったと考えればいいのだろうか。それでも第4弾に期待したい。希望として大劇場進出第1作は上方物で行ってほしい。東京公演で銀座のど真ん中で関西弁が飛び交ったらたいそうミスマッチで面白いだろう。80点。あとは人別に。

 音月桂。このシリーズの主役が当たった、というだけで目前に越えるべき大きな壁が立ちふさがったようなもので、千秋楽まで持ち込んだ(千秋楽の日に観た)というだけで努力はたいしたものだと思う。もともとうまい人ではあるが、一幕の「押す」演技が要求される一方、二幕の船頭として「引く」演技もちゃんと対比が効いていてよかった。今回、下級生を観ていると、全体的に「押す」演技は若さの勢いでできる人は多いのだが、やはり「引く」演技となると中堅クラス以上のレベルの人がもつ技量であることが分かった。音月クラスになればそこは落ち着いている。一幕の変わり身の速さは面白く、二幕の船頭さんも粋でよかった。あと、一幕でお初に投げつけられたむしろを使って、それまでの人生を猛スピードで振り返る歌と二幕の民謡調の歌に歌唱力のよさが光った

 純矢ちとせ。母の病気を助けるために芸者に出て、好きな徳兵衛にも心を鬼にしてきついこともいえるできた女性。娘役に変わったばかりでヒロインだが、声は十分娘役として違和感がなく良く通るいい声で、歌はもう少し聞きたいところ。洋物になるとどうなのか分からないが、メイクも及第点だった。雪組は若手娘役が豊富なので(少し他の組にあげてもいいくらい。具体的には月組へ)これからどういう位置で活躍するか分からないが、転向組としての強みを生かしてがんばってほしい。

 彩那音。雪組初お目見えだがいい意味で浮いていた。それはどこまでうそか本当か分からない「幇間」という役なのだから、他の登場人物より浮世離れしていていいのである。それでも二幕の「それでも若旦那にほれてしまったんでさあ」という真実を話すところはきちんと押さえていたのでよかった。ただ、雪組男役陣は中堅までは人材の図が1本の線のように書けるが、若手以下は戦国模様なので彼女がどういう位置で使われるのかは難しいところだと思う。

 今回も脇をしっかりしめていただいた、主人公の優しい伯父さん役の汝鳥伶さん、そして副組長・灯奈美さんの力なくしては公演は成功しなかったと書いて終わりにする。


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