花組バウホール 「スカウト」

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419. 花組バウホール 「スカウト」

ユーザ名: 金子
日時: 2006/4/2(17:15)

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 「こんな作品ばかりではやばい」正直『アパルトマン シネマ』から続くとそう思います。一部の誤解されているように、年中『ベルサイユのばら』上演しておけばいいかも・・・なんて。

花組 バウホール公演
4月1日→ろ 16

バウ・ミュージカル
「スカウト」
作・演出/正塚晴彦

<解説>
 ハードボイルドとファンタジー、相対する味わいをもつミュージカル。二つの異なる世界の中で真実の愛を求め葛藤する男の姿を描く。
 ショーン・フィンリーは、流行のクラブのステージを任されているダンサー兼振付家である。ある日彼は、舞台での事故により頭に重傷を負い生死の境を彷徨うが、何とか一命を取り留める。長い眠りから覚めたショーンは、以前とは何かがちがって見える世の中に違和感を覚えるが、何はともあれ現場復帰を目指してリハビリに精を出す。
 そんな折、彼は恋人のジェシカが他の男とつきあっていることを知る。それは自分が眠っている間に始まっていたのだ。激しいやり取りの末、ジェシカは立ち去る。その後を影のように追う見知らぬ男の存在にショーンは気づき、胸騒ぎを覚える。
 翌日、ショーンはジェシカが自ら引き起こした自動車事故で亡くなったことを知る。ショーンはその男は人間ではなく、悪魔のような存在であることを悟る。
 ショーンは昏睡から目覚めてからずっとその姿を見ていた。彼らは人間の心の隙間につけこみ、その人間を破滅させることを目論んでいるらしかった。やがてショーンの目の前に、彼をターゲットにしている男が現れる・・・・。(ちらしより)

<メインキャスト> プログラムより抜粋
ショーン・フィンリー(クラブの振り付けスタッフ兼ダンサー):蘭寿とむ
サーシャ(サムを手伝う娘):華城季帆
サム(元牧師):愛音羽麗
アズ(悪鬼):未涼亜希
ラルゥ(悪鬼):桜一花
ジェシカ(ショーンの恋人、ダンサー):野々すみ花

<感想>
「何も得るところがない」

 終演後、隣の二人連れが「これは、私はダメだ」「私もダメ」といってから座席を立った。金子も同感だった。そして「うわー、感想をどうかこう。段落が浮かんでこない」と帰り道はずっと考えていた。

 少し話が宝塚からそれるが、我々は小学校からたいていの人は大学にいたるまで、授業というもののために「座っていた」。それが「無駄な時間ではなかった」、と感じるのは50分なり、90分の間に「なにか得るところがあった」からではないだろうか。「目からうろこ」とはいかないが、なにか得るところがないと、「つまらない授業だった」「役に立たない話だった」「時間の無駄だ」と思ったのではないだろうか。具体的に言うと、高校時代「科学」を取ってなかった超文系の金子にとって、大学でカリキュラムの都合上、しぶしぶとった「自然科学」の授業で、「アインシュタインの相対性理論」を教えてもらったときは、「ああ、これぞ高等教育だ。聞いてよかった」とまさに「目からうろこ」であった。

 さて、劇場でも観客の我々は「座っている」のである。講義する教師を出演者に変えれば、前から発せられるものを受け取る「受身」の態勢であることは、授業と芝居、これ、似ているものなのである。だから、舞台においても授業より長い2時間以上座っている限りは、なにか「得るもの」がないと、「時間の浪費」「チケット代の無駄」となってしまうのである。

 では、劇場で「得るもの」とはなにか。それは、芝居の場合は「テーマ」である。発せられるテーマに対して、共感したり、理解したり、一番望ましいことは感動したりするために「座っている」のである。

 さて、今回はプログラムに「これといった明確なテーマはありませんが」と書かれている。これでは困るのである。これでは、座席に座っている意味がない。なにを「得て」観客に帰ってほしいというのか。30点。
  
 ハードボイルドとファンタジーという相対する要素は、実は二重構造で、最後にどんでんがえし、ということで何とか両立していると思う。しかし、悪魔のような存在を出すなら、同じ正塚先生の『カナリア』(01年 花組ドラマシティ)のほうが、悪魔が主役でずっと逆転発想で知的好奇心を充たしてくれたことをファンは覚えている。やはり、1幕がうやむやのまま終わるのはつまらないし、どんでん返しももう少し説明が必要かと思う。また、愛音・未涼という新人公演を卒業したいわゆる「中堅どころ」が出ているのだから、彼女らにもちゃんとしたソロを与えて欲しかった。個人的には、出ていない出演者も全員両脇で座ってみている、という「ワークショップ」の形式は好きではない。あとは人別に。

 蘭寿とむ。ほとんど出ずっぱりの活躍。刹那的に人生を生きていた男が、事故にあうことで悪魔に取り付かれ、恋人も悪魔の手に落ちたと知ると、自分が死んでまで彼女を助けようとするものの、実はその世界は架空の世界で・・・・、とこうやって書いてみると難しいが、どんでんがえしまでだまされていればいいのだから、割とストレートにやれる内容ではないか。彼女の身上は「勢い」で、それがよく出ていたと思う。演技・歌・ダンスともにレベル以上のものを持っているので、宙組に行っても十分戦力として見込めると思う。彼女のよさは、優秀である人がよく陥る「小器用にまとまる」ことがなくて、個性的な役もこなせるところだ。今後は、彼女のあとを埋める花組の中堅どころが今後がんばらなくてはならないだろう。

 華城季帆。不思議な予知能力を持って、非常に不安定な心理の女性なのだが、実は彼女がショーンを「スカウト」している側、というヒロインとしては一癖ある役。華城はどんでん返しのところまで上手くだましてくれた。不安定なところの表現など、娘役としてより、演技者としての資質を買いたい。歌は澄んだ声で聴きやすい。

 愛音羽麗。牧師の職を取り上げられても、「悪魔退治」にいそしむが、作る機械はどれも中途半端で、という憎めない人物。愛音は普段のフェアリー的2枚目を脇において、このちょっと変わった人物に真摯に取り組んでいた。バウならではの役なので面白かったのではないか。歌もあんなに下手に歌うとは割り切りのよさを感じた。ただし、これから花組中堅どころを引っ張る2枚目でがんばらなくてはならないのはあなたです。

 未涼亜希。プログラムを読んだとき、いい役かと思ったのだが、同じ「悪鬼」の桜に食われてしまっていた、と書かざるを得ない。彼女は本当に「小器用にまとまり」そうで、個性重視の花組において大丈夫だろうか、と心配してしまう。基本的なレベルが揃った人だけに、毎回自分なりに役への工夫をしていくことから始めるのがいいように思える。

 桜一花。今回はヒットだった。男なのか女だか、怖いのか優しいのか可愛いのか、なんとも形容しにくい、一筋縄ではいかないキャラクターを作り上げた。また、老婆もやっており、主役の次に目立った、といっていいかもしれない。いつもの切れのあるダンスも素晴らしいのだが、こういう正塚作品ならではの役を上手く手中に収めたという感じだ。ただ、こういう役が大劇場ではまずないのが、本来の娘役として苦しいところだが。

 野々すみ花。研2での大役だが、驕慢的なお色気と切れのあるダンスで目を引いた。もう少しメイクと表情の工夫をすればいいかと思う。

 『アパルトマン シネマ』の後にこれで、一言言いたい。「宝塚よ、どこへいく」


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