花組ドラマシティ「アパルトマン シネマ」

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417. 花組ドラマシティ「アパルトマン シネマ」

ユーザ名: 金子
日時: 2006/3/27(19:33)

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 こんばんは。「ベルばら」が終わったらいきなり現実路線のようです。もう、『ファントム』まで待つかー。この作品は「宝塚として」は、私は評価できません。

「アパルトマン シネマ」
花組 シアター・ドラマシティ公演
3月18日→24列46番
3月26日→13列27番

ミュージカルドラマ
「Appartement Cinema」
 作・演出/稲葉太地

<感想>
 様々な人々が交錯するホテルという空間を舞台に、現実世界からドロップアウトして過ごす人々が、もう一度各々の抱える問題と向き合い、そして自分の帰るべき場所に戻っていくまでを描いたミュージカルドラマ。

 無国籍な町並にひっそりと佇む一軒のアパルトマンホテル。このホテルの宿泊客たちはみな一様に問題を抱えながら、それをどうしようとするわけでもなく、毎日を取りとめもなく快楽的に過ごしている。一時の勢いをすっかりなくしたものの、プライドだけは人一倍のアイドル。仕事ばかりで家庭を顧みない夫に疑問を感じ家を出たに新妻。颯爽と文壇に登場してみたものの新作のアイデアがまったく浮かばず世間から忘れ去られ始めた青年作家など、ここには束の間の現実逃避の筈がすっかりそこに根を下ろし、お互いの境遇を慰めあって逗留している人々が溢れているのである。
 そんな宿泊客の中でただ一人ウルフという男だけは、これといった問題を抱えているようでもない軽口で調子の良い男であった。
 そんなある日、レオナードと名乗る男が倒れこむようにチェックインし、それを知ったウルフは驚愕する。彼はウルフがかつて「殺し屋」としてターゲットにした男だったのだ・・・・。  (ちらしより)

<メインキャスト>  プログラムより抜粋
ウルフ(ホテルコンチネンタルに宿泊する謎の男):春野寿美礼
アンナ(アイドル女優):桜乃彩音
レオナード・フォスター〔スタン・オコナー〕(ホテルコンチネンタルに宿泊する記憶を失くした男):彩吹真央
オーランド(ウルフの弟分):真飛聖

<感想>
「どこに『夢とロマン』があるのさ」

 最後のラインアップを見て、「ああ、これくらいの現実味たっぷりの脚本で、これくらいの曲なら、別にタカラジェンヌを使わなくても、中流以上のミュージカル男優・女優でやれる芝居では?」と思った。そう思ったのは、とにもかくにも「宝塚らしさ」が感じられなかったからだ。1回目観た時、隣の二人から「あと2回、つらいなー」と声が上がっていたが、個人的にも2回目は祖母の死をはさんだこともあって、あまり劇場に行くのに楽しい気分はしなかった。結論から言うと40点。

 では「宝塚らしさ」とはなにか?それは劇団が掲げる「夢とロマン」というやつである。さて、「夢とロマン」というとなにか漠然としたものであるが、ここで私なりの「夢とロマン」と考えていることを書いてみたい。それは一言で言って「現実にありえそうにないこと」である。現実にいそうもない主人公(例:『ベルサイユのばら』のオスカル)、設定(例:『龍星』いくらなんでも幼少まで育ったら仮の呼び名くらいあるだろう)、心理(宝塚ではよくあるのだが、主人公と主人公に敵対する敵の軍人が心の交流をする)がでてくるのである。幕が上がっている間はそのフィクションにうまくだまされて、緞帳が下りたら、漫才の落ちではないが「そんなことあらへんやろ」で結構なのである。

 一般商業演劇の観客もそうだろうが、特に宝塚の場合、観客は「上手いフィクションに幻惑されて(ショーも含む)、3時間日常から別れ、観劇後は明日への活力を得たい」ということを期待して座席に座るのである。ましてや、その席がいい席であるとか、苦労して入手した席であるならその期待がぐんぐん増すことはいうまでもない。だから、どこの劇場で公演しようと「宝塚歌劇 ○組公演」と銘打つならば、この基本的な宝塚の観客の期待を充たさないことは規則違反のようなものである。今回は、50歩譲るとしてウルフとアンナの恋はロマンかもしれないが、はっきりいって「宝塚」の要素を感じなかった。「一家心中」やら、「借金による家族離散」など、現実に新聞を見ればごろごろ転がっているし、宝塚でいわれたくない。

 テーマはいたってシンプルである。「人は自分ひとりでは生きていけない」。もう少し言うと「ありのままの自分を認めよう」か。また、映像も過度に芝居に干渉していなくてそれはよかった。舞台というものはやる人対観る人のライブが身上であり、そこへ記録できる媒体の介入というのはあまり普段は感心しないのだが、今回は邪魔にならなかった。ただし、芝居のテンポは、幕開きはマシンガンのような台詞合戦かと思ったら、その後はゆったりしたところが多くて、これは芝居がとても長く感じられた。デビュー作、ということで期待していたのだが、相当辛口になってしまった。後は人別に。

 春野寿美礼。一見飄々として、明るく優しいウルフだが、彼は後ろには悲惨な事件から殺し屋になったという過去を抱え、前には「死」が迫っている。いわば「無」の境地だから他人を思いやれるし、他人に優しくもあるのだろう。春野はそんな「過去の苦さ」をにじませつつ、現在を精一杯生きようという気迫みたいなものを感じさせて好演だった。というか、余裕さえ見せて、魅力的な主人公に仕上げた。特に内輪の結婚式の後、レオナードと話すこの話の核心の部分は「過去の苦さ」「友への友情」が溢れていてよかった。もう、主演男役もここまでくると「どんな役でもかかってらっしゃい」状態なのかも。

 桜乃彩音。虚栄心が強く、高慢な落ちぶれアイドル。しかし、解雇されたことによってウルフへだんだん心を開いてゆき、彼の子を妊娠する。1回目観たときはあまり魅力的なヒロインに感じられなかったのだが、2回目は解雇されてから素直になるところはよかった。彼女は容姿も舞台人的素質も十分持ち合わせた人だと思うが、まだまだつぼみは硬いように思う。やはり、次の『ファントム』のクリスティーヌが正念場か。ただ、設定上、主演娘役お披露目に妊娠するというのは勘弁して欲しかった。ウエディングドレス姿だけでいい。

 彩吹真央。少年時代から優等生で、家族離散があっても奨学金で大学にいって弁護士になり、ホテルでウルフに遭遇するととっさに記憶喪失を装う、というかなり知的な人物だ。まず、彩吹というと優等生イメージが強いスターだけに、そのイメージそのまま、という設定はいかがなものかと思う。また、そういう役をきちんと仕上げているのが彼女らしい。上に書いたウルフとの核心の場面やソロなど非常に安定した出来であり、『ファントム』のあと、劇団におけるポジションがどうなるか難しいところだろう。

 真飛聖。ウルフが組織から追われているのをかばい、薬を届けながらも、組織に帰るほうがいいのではないかと彼なりの考えを述べる男気のある青年。星組時代よくやっていたような役であり、こちらも彼女のイメージどおりの役で面白みがなかった。今回は、春野、彩吹と3人で歌うところがあるのだが、歌唱力に定評のあるあとの2人に負けず、ちゃんと声が聞こえてきて、先の大劇場より大分花組にほぐれたかな、と思った。

 あと、レオナードに入れ込むものの、最後は家に帰っていく、セレブの若妻サラの華耀きらり、エキセントリックな役でインパクト十分の梨花ますみ、そして、久しぶりの踊る姿が美しかった専科の千雅てる子さん、が印象に残った。


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