[掲示板: ミュージカル一般 -- 時刻: 2024/11/27(03:42)]
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2月12日→ろ 16
バウ・ミュージカル
「想夫恋」 ―言の葉もなき、君の心―
作・演出/児玉明子
<解説>
平安の世を舞台に、生涯想いを告げられない、許されざる恋に耐える公達の姿を叙情的に描いた物語。
平安全盛の時代。藤原成範(しげのり)には都一の美女といわれ、琴の名手である小督(こごう)という娘がいた。小督には藤原隆房(たかふさ)という、まだ見ぬ許嫁がおり、今日は二人の初顔合わせの宴が催されていた。宴が進み、二人の若者が舞を披露する。いつしか小督は、一人の若者に心奪われ、その男こそが我が夫となる隆房であってほしいと願う。しかし小督が心惹かれた若者は、無情にも隆房の従兄弟、知家(ともいえ)であった。そしてまた知家も美しい小督に心を寄せるが、この想いは生涯誰にも告げることなく、心に秘めておこうと固く心に誓うのだった。
そこへ不穏な影が忍び寄る。時の帝である高倉天皇を失墜させる企てがあり、その首謀者の一人に隆房の名が挙がっていたのである。ある夜、隆房追討の命が下り、屋敷に火が放たれる。そして、小督が見たものは・・・・・それは、愛する知家が隆房を討つ姿であった。(ちらしより)
<主な配役> (プログラムより抜粋)
藤原知家(笛の名手。幼い頃に両親を失い、藤原隆季に引き取られ、息子の隆房と兄弟のように育てられる):北翔海莉
小督(藤原成範の娘。琴の名手。隆房と結婚を決められている):城咲あい
高倉天皇(時の帝。後白河法皇の息子。宮中では暗愚で愚脳な天皇と噂されている。平清盛の娘・徳子を正室に持つ):青樹泉
平徳子(清盛の娘。高倉天皇の正室であり、中宮。天皇より年上である):青葉みちる
藤原隆房(藤原隆季の一人息子。幼くして母を失う):明日海りお
<感想>
「相手に本当の想いを伝えられないとはなんとつらいことだろう」
究極のテーマはこれだろう。もう少し言うと「好きな相手に『愛している』と言えず、それでもその相手のそばにいなくてはならないとはなんと切ないことか」というところか。観る前は、ちらしをみて「あー、なんかだらだら続く感じ?」と思っていた。しかし、最後になるにつれ、かなり切なくなってきて、「鉄壁の涙腺」の金子がちょっと泣きたくなってきた。「日本的叙事」だなあ、という感じがした。
あと、やはり平安時代というのは日本物の中では華やかでいいし、こんなテーマは時代物でない限り実感できないと思った。現代物でこんな主人公作ってもありえない。主人公が女のほうから愛の言葉をいくら求められても、決して言わない、その芯の強さが今の日本人、いや西洋人にはもっとありえないと思う。また、現代と乖離しているからこそこういうテーマは素直に入ってくるのだと思う。
それでも、児玉先生の前作『天の鼓』(04・花組ドラマシティ)や『龍星』(05・星組ドラマシティ)と似たようなエピソード・設定がかなりあった。(主人公が孤児であること)それと、音楽もいまひとつこれ、というのがない。それと、陰謀を起こす後白河法皇と徳子のライバル・葵の前が出てこないのも説得力に欠ける。陰謀のところはもう少し説明すべきと思う。80点。
作品とまったく別の話だが、今回の月組、下級生のほうは特に、日本物のメイクが「?」という人がいた。確かに日本物は少ないし(宙組など8年やっていない!大丈夫か?)「当たらないから」といって、いざ当たるとあたふたせずに、メイクも所作も出来るように上級生に指導していただきたいな、と思った。
北翔海莉。この人は「何も言わなくても、自分できちんと求められるところまで、何もいわずに持ってくる」というイメージがある。それでいて、小器用にまとまらないのが魅力だろう。今回は知家の「芯の強さ」が彼女の性格と上手く共通項があり、それを利用して「役になりきる」手法をとっているのだろう。唯一の小督への感情をあらわにする「婚礼の儀」の場面では、恋に悩むさまがなかなかたおやかだった。また、一幕のラストの歌を聴いていると、努力次第で上級生になるにつれ、いわゆる「ドラマティックな歌」が歌える潜在能力がありそうに思った。メイク以外は十分。メイクはもっと素の美しさがでると思うのだが。某雑誌のインタビューに「いい意味で客を裏切りたい」と語っていたが、その心構えがあれば前進はいくらでも可能、と思った。
城咲あい。小督の「両親は初恋の人同士だったのだろうか」と疑問に感ずる結婚前から、政略で時の天皇が寵愛する側室になり、隠棲するものの、最愛の人の求めによって天皇のもとにもどり、出家するまで、という人生の大半が描かれている。この1人の女性の人生の過程を、城咲も女役としてはかなりキャリアがあり、月組の主力戦力なのできっちりまとめている。しかし、『平家物語』の小督の部分は覚えていないが、ちらし・プログラムから受けるイメージは「都一の美女」「深窓の令嬢」「男性の憧れ」から、削りたての鉛筆の芯のようなすがすがしさが一貫してあったらもっとよくなったのではないだろうか。
青樹泉。平清盛がいる限りは、天皇は所詮「お飾り」でしかないことを熟知して、「うつけ」を装うものの、あまりに清盛の度が過ぎると、今風に言うと「キレて」しまって、槍を持ち出す、というむしろ彼が登場人物の中で一番の「かごの鳥」であったのでは、という人物だ。青樹は「うつけ」と「考えている」ところの差はよかったが、今ひとつ病弱に見えないのと(ごめんなさい!)、ポスターにのるぐらいなら、「うつけ」を装う決心をする場面とか作ってもらってもよかったかも。
青葉みちる。徳子の政治の道具に使われるゆえの父への反発、他の女性への嫉妬、など「建礼門院」のイメージとはかなり違った、生々しい女性像だった。青葉は鬱屈感とエゴを両立させており、物語のフィクサーと十分なりえた。
明日海りお。どちらかというとやんちゃ坊主だが、知家が自分より優れていることを素直に認め、本当の兄弟だと思う、所詮お坊ちゃま。そんな彼が一人謀反の濡れ衣をかぶせられ、知家に介錯してもらう運命になる哀れさはよく出ていた。
専科の立ともみの凄み、磯野千尋の温かさはドラマにスパイスとなり、流石に存在が最後まで消えない。
最後に、主人公の命を奪う狭霧を演じた彩央寿音が、どすぐろい血のような黒の存在で印象に残り、プログラムで確認した次第である。
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