雪組ドラマシティ「睡れる月」

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316. 雪組ドラマシティ「睡れる月」

ユーザ名: 金子
日時: 2005/3/30(15:00)

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 はじめに言うと、「芸術性の高い作品」というのはこういう作品のことを言うのだと思います。難しいけど理解できたら切ない、泣ける・・・っていうのですかね。後段の席に空席が目立ち、「福岡まで大丈夫なのか?」と要らぬ心配をしてしまいました。個人的には貴城けいがよかったです。それでは。

「睡れる月」
宝塚 雪組 シアター・ドラマシティ公演
3月24日→2列30番
3月29日→2列30番

「睡れる月」
作・演出/大野拓史

<解説>
 『嘉吉乱記』『赤松盛衰記』などの室町軍記をベースに、『嘉吉の乱』から『禁闕の変』『長禄の変』に至る後南朝史の人間模様を、『浜松中納言物語』の「転生」の設定を盛り込みながら描く、宝塚ならではのドラマティックな日本物ミュージカル作品。

 嘉吉元年。「万人恐怖せり」と言われた、室町幕府六代将軍義教の治世。
かねてより義教の治世に疑問を抱き、朝廷に力を取り戻したいと考えていた浜松中納言は、同僚であり、婚約者・大君の兄でもある式部卿宮と共に、義教の暗殺計画を練っていた。義教に冷遇されていた有力武将・赤松満祐はおろか、義教の寵愛著しい能役者・音阿弥(観世元重)の助力までも得て、計画は順調に進むかと思われた。
 暗殺計画の日。満祐の子・教康の宿舎に、義教を招いて催された祝宴の演能の最中、突如、中納言が襲いかかり、式部卿宮が止めを刺し、義教の暗殺そのものは成功に終わる。だが、事態は思いもかけぬ方向へ向かっていく。
 有力武将の殆どが反赤松で固まり、満祐の軍勢が敗走し始めたのである。そして、その敗走の途上、狼藉を働く軍勢に巻き込まれたのが、他ならぬ大君であった。駆けつけた中納言の腕の中、大君は「必ず会います。吉野の宮で・・・・」と言い残し、息を引き取っていく。中納言はその言葉に導かれ、一人吉野に向かうことを決意するが・・・・。(ちらしより)

<主な配役>
浜松中納言:朝海ひかる
大君/二宮:舞風りら
式部卿宮:貴城けい
足利義教:一樹千尋
蜷川新右衛門:飛鳥裕
宰相の君:灯奈美
日野宗子:美穂圭子
三条尹子:有沙美帆
石見太郎左衛門:悠なお輝
楠木二郎正頼:未来優希
六字夜叉:愛耀子
観世小次郎信光:麻愛めぐる
笹花の小君:天勢いづる
 
<感想>
「プログラム代ケチったらあきませんで」

 大野先生の作品といえば、『更に狂わじ』は体調が最低のこともあったが「更に狂いそう」であったし、『月の燈影』は「川向こうがわからんがな」だったし、『花のいそぎ』は「ちみもうりょうとして分かったようなそうでないような」と一度の観劇で理解するのが難しい作品が多いので、この公演の概要を知ったとき、チケットは2枚買った。

 で、本作である。結果から言えば、今までの作品の中で一番分かりやすかった。それは、主人公を初め架空の人物を多く登場させることで、昨年は流行ったが本当は宝塚の専売特許の「純愛」を本筋においているからだと思う。実際、2回目は大阪の前楽であったが、出演者の力も入っていて、終演後、哀切感溢れるいい舞台だった。芸術性が高いと思う。ということで90点。ただし、プログラムを読んでの上の点数である。

 1回目は開場してまもなく劇場に入り、プログラムを読んだのだが、5ページにわたるブロマイドメンバーの役名とその役の内容を読んだだけで「ふう」となってしまった。その上、「物語」のページに入るとその5ページだけではすまない登場人物が出てくるので、時代と架空と実在にわたる登場人物を理解するのが難しい、というのが正直な気持ちだ。大野先生の作品は上に上げた3作もそうだが、どちらかといえば歴史的に一般日本人にポピュラーな時代背景ではないので、それを理解するのはプログラムなしではどうなるのだろう、というところだ。また、今回は装置もほとんど変らないので、台詞だけで政情を理解するというのは、結構頭を使う。

 たしかに、主人公の「純愛」に対する「どろどろした世情」という対比にこの時代が選ばれているのだろうが、もう少し分かりやすい時代設定であるなら、観客が共感しやすい日本物ミュージカルになるのではないか、と思う。言い直せば、ポピュラーな時代背景の日本物を大野先生が作られたら、今の芸術性をもってすれば、素晴らしい日本物作品が出来るのでは、と思うのだが。それでも、宝塚であまり取り上げられない時代に取り組まれる意欲はすごいと思う。

 テーマは「素直な心のままに生きるということはなんと難しいことか」ということだと思う。これは主人公が体現しているのだが、『エピファニー』も含めて大野作品に一貫しているテーマのように思う。あとは人別に。

 朝海ひかる。一言で言うと政情と運命に翻弄され非業の死を遂げる公家である。宝塚の主役そのものの2枚目であるのでなんなくこなしているように観えた。主演男役就任以来、朝海には意外とこういう純粋な2の線の役がなかったような感じがするのでこれはこれでよかったのでは。ただ、今回の貴城との設定や最期の遂げ方などみていると、『更に狂わじ』とよく似ていているように感じたのは金子だけか。テーマはよく表現していると思う。

 舞風りら。大君は可憐で純粋な女性だから、それ以上どうといったことはない。問題は、二宮である。兄から周囲の目をそらすため、皇子の振りをする姫宮である。言葉遣いや、急に女姿で中納言の前に現れるところで正体はばれるのだが、もう少し前からバラしてしまってもよいかも。例えば、兄宮との対面のシーンを作って、窮屈な生活を送っているという伏線を張るとか、「本当の自分は何なのか」と自問自答するシーンとか、歌だけでなく中納言へ秘めた女心がゆれる、という台詞を増やすなどして欲しかった。そうでないと、主演女役がやる意味がないと思う。この組のスター絵図と「輪廻転生」というサブテーマから舞風の2役ということになるのだろうが、二宮の比重をもう少し多くして、男役にやってもらうほうが面白いかも。舞風は女姿になったとき、中納言の胸に飛び込みながらもはじらうところがよかった。

 貴城けい。幼いころはその美貌で将軍の寵愛を得て、宮家の主となってからは、冷徹な策士に徹することで宮家を守ろうとするが、その結果2人の兄弟を死に至らしめてしまい、自分は残ってしまう、という役だ。悪の要素もあるので宝塚の主役にはならないのだろうが、客観的に観ていてこちらのほうが面白い役だ。2番手としてもかなり比重が大きい。貴城は抑制を効かせた演技で好感が持てた。彼女は初の単独主演作が日本物(『ささら笹舟』)だったこともあるのか、雪組の伝統の日本物に強さを発揮する感じがする。

 一樹千尋さん。独裁者の横暴さと傲慢さは十分。また台詞回しが素晴らしい。こういうところはやはり専科の力である。

 役が多いので書き上げればきりがないが、日野家のゴッドマザーの強さを出した美穂圭子、強面で骨太な武将を演じた未来優希、モノローグや能そしてしっかりと脇をしめた麻愛めぐる、娘役に思った以上に上手くシフトできていた天勢いづる、などが特に印象に残った。

 この公演は福岡まで行くようだが、「宝塚の日本物の格調の高さ」が感じてもらえるいい舞台なのではないか、と思う。これで終わる。


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