梅田コマ劇場「エリザベート」

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271. 梅田コマ劇場「エリザベート」

ユーザ名: 金子
日時: 2004/11/11(10:20)

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 こんにちは。帝劇の「RE」にしてもいいかな、と思ったのですがかなり期間が開いてしまっているので別立てにします。ダブルキャスト全部制覇、と意気込んだものの、知恵熱か(笑)風邪を引いてしまって、普段使わない金を使うとこうなるのか、と少し自嘲気味です。それでは。

「エリザベート」
梅田コマ劇場
11月8日→1階9列25
11月10日→1階9列25

ミュージカル
「エリザベート」
脚本・歌詞/ミヒャエル・クンツェ
音楽/シルヴェスター・リーヴァイ
オリジナル・プロダクション/ウイーン劇場協会
製作/東宝株式会社
演出・訳詞/小池修一郎

<メインキャスト>
エリザベート(オーストリア皇后):一路真輝
ルイジ・ルキーニ(皇后暗殺者):高嶋政宏
マックス(エリザベートの父):村井国夫
ゾフィー(皇太后):初風諄
マダム・ヴォルフ:伊東弘美

〔キャスト 11月8日〕
トート(死の帝王):山口祐一郎
フランツ・ヨーゼフ(オーストリア皇帝):石川禅
ルドルフ(皇太子):浦井健治
エルマー(革命家):今拓哉
  
〔キャスト 11月10日〕
トート(死の帝王):内野聖陽
フランツ・ヨーゼフ(オーストリア皇帝):鈴木綜馬
ルドルフ(皇太子):パク・トンハ
エルマー(革命家):藤本隆宏

<感想>
「なんと深遠にして偉大なテーマ」

 人々の人気があり、長く愛されるミュージカル、というのは「時代を超えて普遍で力強く観客に訴えかけるメッセージ」を持っていると思う。(芝居でもそうだと思うが)ただ、そのメッセージの伝え方が、ハッピーエンドで包んで明るく伝えるか、テーマを前面に出してシリアスに伝えるか、の2つの手法に分かれているようだ。前者を「明るいミュージカル」とし、後者を「考えさせられるミュージカル」とするならば、現在日本で人気があるのは圧倒的に後者のようだ。この『エリザベート』は後者の代表格だと思う。観終わってまずそれを感じた。

 ならば、なぜここまで人気があるのか?それは宝塚版で副題とされる「愛と死のロンド」ということだろう。「愛」とはいわば「生への執着」である。一方、「死」はそのまったく正反対である。この正反対の2つの要素を、エリザベートという実在の女性を通して融合させているところがこのミュージカルの卓抜したところだと思う。もし、エリザベートが死に憧れていなかったら、また、あのような悲劇的な人生を送らなかったら、いや、エリザベートという存在自体が実在しなかったら、このミュージカルはずいぶん私たち観客の想像・共感から離れてしまっただろう。エリザベートが実在し、彼女を誘うトートというキャラクターを出現させることで、少なくともわれわれは「死」に対してロマンや、神秘性を感じることが出来る。この「死」という提示は人生を生きるうえで、この上なく深遠であり、その「生」と「死」の融合をテーマとして見せることはすばらしいというのを通り越して偉大、というしかないと思う。このミュージカルは劇団四季が誇る『CATS』より長く愛されるのではないだろうか、と思って劇場を後にした。

 演出に関しては前回(2001年)の大阪公演、宝塚版と大分変っていたが、宝塚版との一番の違いは、最後エリザベートが「私だけに〜♪」と歌い上げるところだろう。宝塚の場合はトートとエリザベートが彼女の「死」によって結ばれ、2人で昇天するのだが、今回はエリザベートが「死」をも勝ち取った、選び取った、という意味合いが強く感じた。棺から彼女は登場し、棺へ戻る、というのもロマンには欠けるかもしれないが、まあこれもいいか、と東宝版として観られた。

 また、この東宝版は時代色というものが強く、ハーゲンクロイツも出てくるのだが、トートダンサー諸君の妖しさも合わせて、世紀末、というのが強く感じられた。また、宝塚では『薔薇の封印』で登場した電飾による背景だが、個人的には時代にあっていない感じがした。3本の塔の上にトートやルキーニが立つのは効果があると思ったが、梅田コマは舞台の奥行きがあまりないからだろうか、それでももう少し奥を利用しても、と思った。(他の劇場もそのようだから仕方ないかな)

 カンパニーに関しては、1年の集大成だからだろうか、「♪ミルク」のところなど、1階9列にいては缶の音がガンガンしてきて、東宝ミュージカルにしてはなかなかのまとまりを見せてもらった。

 平日にかかわらず、SS席(梅田コマでは過去最高の値段設定)はほとんど満席で、スタンディングオベーションとなり、幕が何度も上がった。大阪が最後の公演の場所に選ばれて、関西人としてはうれしかった。細かく観るには4〜5回の観劇が必要なのだろうが、どうも13000円を何回も、とは行かないので2回でこれを書いている。いつ観てもすばらしいミュージカルだ。来年の宝塚月組も期待が膨らむ。あとは人別に。先にダブルキャストでない人から書こうと思う。(敬称略)

 エリザベートの一路真輝。観ていて一路さんがエリザベートなのか、エリザベートが一路さんなのかわからなくなるほどの、圧倒的な存在感だ。宝塚版は「窮屈な人生のなかでけなげに生きる」という感じのエリザベートだが、一路さんのエリザベートには「個人の意思」というものを強く感じた。それがよく表れているところが、2幕の「♪私が踊るとき」であろう。自分の意思のままに生きる、でも皇后としての生きかたを強制される、でもどんなときも「私は私だけのもの」と強く生きる、しかしその生き方が受け入れられないのであまりの孤独感に気がおかしくなりそう、というエリザベート像が明確に表現されており、一路さんは『エリザベート』のために生まれてきた人ではないか、とすら感じられた。この役をダブルキャストにするには相当の人を持ってこなくてはならないだろうな、と思う。

 ルキーニの高嶋政宏。2001年のときはあまりインパクトがなかったのだが、今回は少し他人と違いすぎて、現実では浮いてしまっているような人物が、最後に自分の存在価値を示すためにエリザベート暗殺をやる、というように思った。ルキーニの「普通でないところ」が台詞まわしなどに表れていて、なんともユニークな人物像であった。歌も「♪キッチュ」を始め、客席を沸かせてくれて、これからいろんなミュージカルに挑戦できそうな期待を持たせてくれた。前回大阪公演から格段の進歩を感じた。

 マックスの村井国夫。ここまでのベテランにやっていただくと、マックスが単なる気楽なお父さん、ではなく、シシィの原点、というところが良くわかった。なんだか、出番が少ないのがもったいないような。

 ゾフィーの初風諄。死ぬ前の歌や少年ルドルフとのやり取りなど前より出番が増えたようだが、この人の芸能界復帰後の働きは目覚しく、あのまま宝塚卒業後ずっと芸能界にいたら、今どれほどの一目おかれるミュージカル女優になっていただろう、と思う。この役は完全な「持ち役」となっている。

 ルドヴィカの春風ひとみ。宝塚時代から上手い人であったが、らくらくこなしているように見えた。もっと大きな役でも十分こなせる人材なので、東宝側ももっと起用していただきたい。

〔11月8日のキャスト〕
 トートの山口祐一郎。前回の大阪公演では、彼のトートは3日か4日間しかなかったので、やっとの思いでチケットを取り、2階後方にて観た思い出があるが、あまりスタンスは変っていないように感じた。「俺の魅力に抵抗できるはずがないだろう。かかってくるならかかってこい」まあこんな感じだ。立派な体躯から繰り出される朗々とした歌声は、「朗々」という語がもっとも似合うミュージカル俳優だと思うし、「ミュージカル界の雄」といわれるのも当然だと思うが、正直、もっと役作りに工夫が欲しかった。各場面でのトートの位方というものがあってもいいような。(山口さんのファンの方すみません)また、ハイライトナンバーの「♪最後のダンス」は朗々と歌う曲ではなく、シャウトする曲のような気がする。すごく男性的なトートだな、と思った。

 フランツ・ヨーゼフの石川禅。いきなり失礼だが、今までこういう高貴な役を見た覚えがないので(『メトロに乗って』とか)どうか、と思ったが、実にフランツという人物にあわせた丁寧な造りだった。場面ごとの感情、歌詞の意味、をきちんと取れていて好感が持てた。フランツは普通にやっていたら本当に地味な人物なのだが、彼の誠実さ、ハプスブルグへの責任感、という男としての矜持が良くわかった。

 ルドルフの浦井健治。ミュージカル俳優としてはまだまだこれからの素材だな、と思った。運動神経はよさそうなので、ダンスは習ったらもっと上手くなると思う。

 エルマーの今拓哉。劇団四季出身らしく(このカンパニーには劇団四季出身は何人いるのだろう?プログラムを見ると宝塚出身者より多いのでは?)楷書体でやっており、少し本人にとってはこの役は物足りないのではと思った。

〔11月10日のキャスト〕
 トートの内野聖陽。歌に関してはちょっと言いすぎかもしれないが、前回公演とは別の人か、と思うほどの格段の上達を感じた。特に、「♪最後のダンス」は直情的かつ挑発的で、最後の歌い上げも上手くて、正にハイライトナンバーであった。その歌は、聴いていると「役者の歌だな」と思った。つまり、他のミュージカル俳優の人が「先にメロディーありき」なら、「先に歌詞ありき」である。歌詞の内容の解釈の後にメロディーが付けられているというところである。内野トートの特徴は、場面ごとに表現が、怒ったり、優しく迫ったり、同情してみせたりと変ることである。そして、最終的に、官能的で青い血がたぎっているようなトート像が浮かび上がる。「玄人好み」とか、個人の好みといわれると思うが、自分としては内野トートのほうが好きだ。なんだか、10日はトートをずっとオペラグラスで追っていたような。前回公演時は日程の問題と歌唱力で山口トートに水をあけられた感じだが、今回はすごい追い上げだと思った。ストレートプレイだけではなく、もっとミュージカルもやって欲しい。(『ジキル&ハイド』とかいいかも)
 
 フランツ・ヨーゼフの鈴木綜馬。音域が広いことを感じさせないソフトな歌い方と、フランツも過酷な人生の中でマザコン皇帝から厳格な皇帝へと成長したところを、まじめさを前面に、凛として、ノーブルに表現していて、先駆者の意気を示した。特に若いころの演技が前回と大分変ったと思った。また、ゾフィーに決別するところは、「本当は実の母親にこんなこと言いたくないのだろうけど、流石の彼でもこれ以上我慢できないわね」とフランツの男としての悲しさを感じた。「♪夜のボート」が心にしみた。

 ルドルフのパク・トンハ。在日3年、ということだからかなり日本語は使えるのだろうが、出番の中で不自然さは感じなかった。むしろ日本語が外国語であるから、歌詞においてキーワードとなる言葉がわかるのか、強く言っていてよかった。韓国での実績を読むとこれぐらい出来る人なのだろうが、「韓流」ブームの中、こんな人材を日本に流出してしまっていいのかなあ、と思った。『雨に唄えば』を韓国でやったなら、日本で宝塚と競演、というのも面白いかも。(もちろん宝塚側は安蘭けいですよ)

 エルマーの藤本隆宏。出てきたときすごく立派な体つきだったのでしらべると、元オリンピック選手だとか。山口のところにも書いたが、立派な体ならいい声も出るのは当然かな、である。こちらは台詞で言われるように熱血漢に作ってあり、2幕でもう少し工夫が欲しいところである。

 とにかく、日をおかずに2回観たが、いいステージが観られてSS席の価値もあった。最後に金子が不注意でオペラグラスのキャップをなくしてしまって、一生懸命探してくれた劇場のお姉さんと舞台から降りてきて思わないところからそれをペンライトで見つけてくださったスタッフの男性にお礼を言います。ソワレの準備があるのに失礼しました。安心して帰れました。
 

<金子のコラム>
 この公演を観たあと、普段行かないちょっと表通りから1本入った映画館に行った。用事は前売り券を買うためである。なんの映画か、というと「五線譜のラブレター」(米・04)である。邦題では何が興味を引くのか、と思われるだろうが、コールー・ポーターの伝記映画である。「ああ、金子、ポーターの曲好きなんだ」と思われて結構。名曲集のCDもかなり持っています。あまり大々的にPRしていないようだが、夕刊で試写会の募集をやっていたので気がついた。そのとたん「これは行かなければ!」と思ったのだが、いつも行かない映画館での公開なのが残念だ。大々的には難しいのかな。ミュージカル映画の老舗MGMの80周年記念映画、場所によるだろうが、1300円で9曲入りの日本製ではないが英語音痴の金子でも簡単にわかるCDが付いてきた。結構お得、いや1300円ばかりでもらいすぎ?行った甲斐があった。12月公開。「いやー、ポーターの曲はしらない」というミュージカルファンはいないと思いますよ。「♪ナイト&デイ」「♪ビギン・ザ・ビギン」は代表曲ですね。来年は「オペラ座の怪人」の映画版も公開されるようだし、かなりミュージカルファンとしてもいろいろ楽しみである。それより前に早々に前売り券を購入して忙しくて日時・座席指定ができていない「ハウルの動く城」にいかなければなあ。


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