Re: 宝塚宙組ドラマシティ「BOXMAN」

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184. Re: 宝塚宙組ドラマシティ「BOXMAN」

ユーザ名: 金子
日時: 2004/3/29(14:51)

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 こんにちは。実はyasukoさんのご感想を読む前に下の文を書いたのですが、2人書くと違うものだなあ、と。ドラマシティは土日当日券は補助席しかありません。それではお願いします。

「BOXMAN」
−俺に破れない金庫などない−
宝塚歌劇宙組 シアター・ドラマシティ公演
作・演出:正塚晴彦

3月21日 6列8
3月28日 21列30

<解説>
 1960年頃のロンドン。ケビンは金庫破りから足を洗い、今はある二流の金庫メーカーに雇われている。彼の仕事は、営業兼広報担当のドリーとともに銀行や金持ちの屋敷を訪れ、他者の金庫を簡単に開けて見せ、自社の製品を売り込むことだった。ケビンとドリーは、職人のロジャーが考案した新システムの金庫の売り込みに奔走する。そんなある日、ドリーはサンプルが入った鞄をひったくられてしまう。人生観も性格も違う男女が、愛し合うようになるまでを描いた大人の恋物語。(ちらしより)

<メインキャスト> プログラムから抜粋
ケビン・ランドル(二流金庫メーカー、セイフティボックス・インダストリーの社員):和央ようか
ドリー・ペイジ(セイフティボックス社の営業兼広報担当):花總まり
テレサ(ドリーの母):矢代鴻
ロジャー(セイフティボックス社の開発担当者):未沙のえる
ファーマン(セイフティボックス社の社長):美郷真也
ディケンズ(実業家。ドリーに想いを寄せている):寿つかさ
ダイアン(リロイの仲間):初嶺磨代
リロイ(ケビンの昔の仕事仲間):遼河はるひ

<感想>
「ゴールデンコンビと脚本のハーモニーの大人の寓話」

 正塚先生の作品といえば、前作『Romance de Paris』が「らしく」なかったので、今回はどうなるか、元の路線に戻るか、興味を持って出かけた。

 正塚作品の特徴というのは、「ありそうな時代・人物設定」を元に「ドラマという虚構」(脚本)+「宝塚の虚構(男役と女役)」が重なって、いかにもありそうな話なのでついつい客はつりこまれてしまう「宝塚ロマン」、というところだと思う。『バロンの末裔』など上演時は余り人気がでなかったが、「ありそうな話」という点ではビデオ向きだったかも知れない。しかし、最近の作品を見ていると「ありそうな人物設定」でないものもある。悪魔(『カナリヤ』)、適当にクラブを経営しているだけでいい社長の妾腹の子とその相手は王女様(『Romance de Paris』)などがそうだろう。しかし、それこそ20年前など考えると、宝塚の主人公というのは「こんな男いないよ」と思える人物大登場、という感じだったから、「舞踏会シーンが無い」といわれ、異端児扱いされた正塚脚本も「宝塚ナイズ」してきている、と言ってもいいのかもしれない。しかし、「ありえない主人公」が登場しても、一貫して描かれているのは、「ありえそうな人間関係」だからその魅力は失われることは無い。

 さて、今回の作品だが、確かに「トレンチコートを着ても、ロングコートを翻しても格好いい伝説の元金庫破り」などまあ実際にいないと思うのだが、その分相手のドリーの人物像や、そのドリー母子の関係(あのやりとりは正直、金子は自分の母親から自分に言われている気がした)など「ありそうな」設定にしてあるのでドラマに共感できる。その点では、本筋が初めから見えていて、脇の筋が時間をとってしまった前作『Romance de Paris』に比べてずっと良かったと思う。ただ、もう少しケビンが事故を起こしてBOXMANを辞めた理由、リロイとケビンの関係、リロイと組織の関係、などを台詞で言ってもらわないと、どういう「しがらみ」なのか今ひとつはっきりとしなかった。

 さて、「ゴールデンコンビ」といわれるまでになった、和央、花總のコンビをどう扱うかは脚本家の腕の見せ所だとおもうが、まず現代劇なのは新鮮だ。そして花總の方から好きになってキスするのもいいなと思った。なら悲恋で終わるか、と思ってみていたのだが、最後はやはり「愛さずにいられない〜♪」で花總が和央の膝の上に乗ってしまうハッピーエンドは台詞ではないが「ま、これでいっか」となんとなく納得できてしまえ、大人の寓話を楽しめた気がした。次の作品の『ファントム』は悲劇だろうから、そう悲劇続きもなんだな、と思った。

 曲は普通の会話のような歌詞が上手く歌になっていたと思うし、セットもシンプルだが機能的でドラマシティを良く知ったスタッフによるもので安心してみていられた。

 ただ、場所の設定だが、上のチラシにはロンドンと書いてあるが、絶対アメリカだろう。上演前はロビーにはフレッド・アステアの歌が流れているし、劇中FBIは出てくるし、フィナーレナンバーの曲もオリジナルを除いてアメリカの曲だし(ちゃんとコール・ポーターの曲が入っていた・・・宝塚、好きだなあ)、プログラムにもそう書いてある。チラシは早く作りすぎたのかな。 後は人別に。

 ケビンの和央ようか。上に書いた格好いいところはこの人の容姿をもってすれば十分すぎる。このケビンという男は、始めは会社員になって人生をハスに構えてみているような状態から、会社のことやドリーとの関係において真正面から人生に向き合わなくてはならなくなって、そうすると本質的に持っていた「誠実さ」が表れるのだが、過去のしがらみから逃れられないのでドリーを素直に愛することは出来ない「辛さ」や「苦さ」を内に秘めた人物だと思う。和央はこの「誠実さ」と「苦さ」を程よくバランスを取って表現していて良かったと思う。「こんな金庫破りがいたら惚れちゃうわ」と思った観客も多いだろう。

 ドリーの花總まり。宙組は彼女主体で進んでいく舞台が多いなかで、一見はキャリアOLに見えるが、内面は今ひとつ自分の考えに自信がもてなくてもろい女性をこちらも余裕で演じているように見えた。その彼女の心の支えをしてくれるのがケビンであり、だから愛さずにはいられない、という女性の心の動きが緻密に演じられていた。また、母親とのやりとりは本当にありそうで共感を覚えた。

 テレサの矢代鴻。気難しくて、現金主義の母親でわがままを言うのだが、それでも所詮は母と娘、最後に「コーヒー煎れようか」というところはとても心が和んだ。しかし、これからの高齢化社会において、ドリーとテレサのような関係はいくらでも起こるのではないか、と思った。

 ロジャーの未沙のえる。いわゆる「職人さん」なのだが、いつもと変わらずいい味を出している。しかし、今回は「脇役ぶり」においては、下に書く寿つかさに食われてしまったようだ。

 ファーマンの美郷真也。利益至上主義で、短気なワンマン社長だが、こちらはしっかりと脇を固めた感じだ。特にイライラするところは「あーこういう社長がいたらたまらんな」と思わせた。

 そのディケンズの寿つかさだが、ドリーと結婚するために画策する一番の策士なのだが、ユニークというよりエキセントリックな役作りになっていて、悪役だというのにずっと笑わされっぱなしだった。彼女の大ヒットだ。メインキャストの中では一番印象に残るかもしれない。自分であのキャラクターを考えたのなら凄い。最後に引っ込むところでも、アンコールでも拍手が大きかった。

 ダイアンの初嶺磨代。普段は男役なのだが、全編女役で、鉄火肌の姉御を色っぽく演じられていたと思う。宙組は上級生の女役が手薄なので、女役に転向してもいいかな、と思った。

 リロイの遼河はるひ。下級生にしては壮年の設定だが、もう少し凄みを利かせても良いかなと思った。ただ、彼もケビンと同じようにしがらみを負っている人間、というのは良く分かった。それと上に書いたように、リロイのしがらみはどういうものなのか脚本に書いて欲しかった。

 あと、ルーズベルトの十輝いりすがヌーボーとした味で印象に残った。

 ということで色々書いてきたが、90点というところか。「大人のロマンだね」という感想で終わる。


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