雪組バウホール「送られなかった手紙」

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170. 雪組バウホール「送られなかった手紙」

ユーザ名: 金子
日時: 2004/2/9(15:15)

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 こんにちは。一言で言うと、ロシア物=重い、という概念は覆りませんでした。別に壮一帆のファンではありませんが、皆頑張ってやっているので、東京の方、お暇ならば、チケットあれば、観てください。しかし、難しい主題の舞台だと思います。書くのに結構時間かかりました。宜しくお付き合い下さい。

「送られなかった手紙」
宝塚雪組 バウホール公演
2月8日 い列18番

バウ・ミュージカル
「送られなかった手紙」
作・演出/太田哲則 

<解説>
 20世紀の初め、引退した医師セルゲイのもとを、一人の画学生が訪れる。かれは、シベリアへのスケッチ旅行の折にアトリエに借りた廃屋で、数通の手紙を見つけ、その宛名の一人であったセルゲイに届けに来たのだった。差出人のルイスというのは仮の名前で、実はセルゲイの甥ドミトリーであった。その夜、ドミトリーのことを思い出し眠れなくなるセルゲイは、その理由を探ろうとする。すると、彼の脳裏にかつてドミトリーの友人・知人であった人物達が次々に登場し、ドミトリーの生涯を振り返り、話し始める。
 モスクワの名門学校を優秀な成績で卒業したドミトリーは、詩人としての才能にも恵まれた、好奇心旺盛な若者であった。しかし、それゆえに、自由思想など新しい時代の空気に触れた彼は、皇帝の専制政治を批判する詩を書き、ロシア南部へ左遷される。そこで、将軍令嬢マーリヤに再会した彼は、彼女に心惹かれるが、彼女は、彼が一ヶ所にとどまれる人ではないと、その求愛を退ける。
 田舎町の単調な日々に、自堕落な生活を送るようになった彼は、以前に書いた詩のために、皇帝を打倒しようとする勢力との関係を疑われ、シベリアへ送られる・・・。
 魂の遍歴の果てに、ドミトリーが求めたものは何だったのか・・・・。20世紀初頭の帝政ロシアを舞台に、様々な人たちの証言から、送られなかった手紙を書いた男の、心の秘密を探る物語。
 壮一帆の、バウホール単独主演作品。(ちらしより)

<主な配役> (プログラムより抜粋)
ボリス・アレクサンドロヴィチ・ドミトリー(名門貴族の子弟、ロシア一の人気詩人)
:壮一帆
マーリヤ・ヴォルコンスカヤ(伯爵夫人、旧姓ラネフスカヤ):晴華みどり
ジナイーダ・オーシボヴナ(ドミトリーの母、ガンニバル将軍の孫娘):千雅てる子
セルゲイ・リヴォヴィッチ(引退した医師、ドミトリーの伯父):一樹千尋
ジョルジュ・ダンテス少佐(ドミトリーの決闘相手。近衛連体の士官、男爵):箙かおる
ミハイル・チャーダエフ(ドミトリーの学友):麻愛めぐる
イヴァン・プーシキチン(ドミトリーの学友):天勢いづる
ニコライ皇太子(ロシア皇太子):神月茜
ナターリヤ・ゴンチャローワ(ドミトリーの妻):涼花リサ

<感想>
「『魂の叫び』は、いつも、必ず、100%実現されるものではない」

 観終わった後、正直「あー難しいな、どうまとめれば」と考えてしまった。結局上のような結論に至ったのであるが。

 「魂の叫び」というのは「こうありたい」という願望である。このミュージカルにおいては、主人公ドミトリーの「帝政ロシアを倒そう」という「魂の叫び」は詩を通して革命に実行されるので実現されるが、一方、マーリヤへの愛は彼女に拒絶されて実現されない。

 しかし、こう書いてくると「おい、金子、プログラムを読んだのか。2つの主題がある、と書いてあるではないか」と指摘される向きもあろう。だが、金子の考えるところ、この2つの主題はなんとか上のようにまとめられるのではないか、と思うのである。
 まず、第一の主題の「送られなかった手紙」であるが、これはドミトリーの手紙を書いた当時の「魂の叫び」である。しかし、これらは出して告白することができず、50年後に伯父によって、その当時の人々に伝えられ、ある者は理解し=つまりドミトリーの思いが実現され、ある者は読むだけ=実現されない、となるのである。
 そして第二の主題に「人生における後悔・悔恨」であるが、これはいわば「100%実現されない『魂の叫び』」だと思う。伯父セルゲイを例にとってみれば、彼はかつてロシア一の名医といわれたが、死んだ甥ドミトリーほどロシアの歴史において普遍的な価値のある人間になれなかったことを後悔している。しかし、ドミトリーが死んでしまった今となってはドミトリーを上回ることは100%不可能である。しかし、彼は「ドミトリーほど有名になりたかった」という「魂の叫び」をいまだ持ち続けているのである。そしてその「魂の叫び」は月日を重ねるにつれ、他人に指摘されるように「嫉妬」に変わってしまっている。

 こう考えてみると、上のようになるのではないか、と少し(かな?)頭を使って結論が出た。やはりロシア物は重い。

ドラマとしては筋がしっかりしていて、内容の濃いものなので、各人きちんと台本に沿って演じていけば間違いの無い芝居と思うが、貴族などの格式を出すのは下級生中心なので難しかっただろうと思う。また、バウで少人数の分、一人何役もやっていて大変だろうと思った。それでは人別に。

 壮一帆。ロシア革命を起こそうと詩を通して呼びかけ、その思想は達成されるのであるが、人生においては「心の人」マーリヤには愛を拒絶され、自分も思い通りの暮らしができず、自暴自棄になってしまう青年だが、作家とは作品は後世に残ろうとも実際の生き様とはつらいものなのだな、というところは良く分かった。思想を曲げようとしない筋のとおったところはこの人のすっきりとした個性とよくあっておりよかったが、欲を言えば自堕落で虚無的な生活になってしまうところはもう少し崩したほうが良かったのでは。そろそろ「男役の色気」が必要な学年かな、と思ってみていた。しかし、そんなことより急務なのは歌、もう少し伸ばすところなど練習して欲しい。現状では本公演ではソロの歌が少ないから仕方ない、といわれればそれまでだが宝塚「歌」劇なのだから歌は大切だ。でも、初主役としては、台本のよさに助けられて実力は出し切れていたと思う。

 晴華みどり。ドミトリーを愛していながら、彼の自由奔放さには自分はついていけないと理解して彼の求愛を退け、夫が彼の詩に突き動かされて革命を起こし、シベリア送りになった一方で、ドミトリーが皇太子に忠誠を誓うのが道義的に許せず、最後の詩の受け取りも拒むが、本当はドミトリーのことをずっと思っている、という登場人物の中では1番難しい役かもしれない。声の美しい娘役さんなので、歌がもう少し聴きたかった。役作りにおいては、落ち着いて、理知的に、感情をあらわにしない演技で、マーリヤの「情念」というようなものを上手く表していたと思う。特に最後にドミトリーが会いに来て詩を渡されるのを拒絶するくだりは凛然として美しかった。

 千雅てる子さん。気位が高く、名門の名誉を息子に託したドミトリーの母だが、しかってばかりいるのはあまりにも息子に理解がなさすぎに思えた。脚本には母親の愛情を見せるというところは考えられなかったのであろうか。でも、専科の方だから、出ているだけで、他の下級生とは違う、筋金が通ったような舞台姿はさすがだった。

 一樹千尋さん。ドミトリーの生き方に一番理解を示す親族だが、この芝居では狂言回しとしてしっかりとしめておられて、年末のドラマシティとはまったく違った役を短期間で創られるというのはこちらもさすが専科、である。

 箙かおるさん。最終的にはドミトリーの決闘相手となる士官だが、この方は敵役をさせたら、今の宝塚NO1ではないかと思うので、初めからドミトリーを危険人物と着けまわすところや、ナターリヤに近づくところは、もうお手の物、といった感じであった。

 麻愛めぐる。ドミトリーの友達では主格だが、『ホップ スコッチ』や「樹里咲穂コンサート」では目立つ存在だったので、今回も危なげなく観られた。もう上級生だし実力派だと思うので本公演でもっと使ってもらいたい人材である。

 天勢いづる。ドミトリーの友達役だが、本公演では女役のダンスで目立つ人なので、今回男役として見せてもらった。ファンの人には悪いが、一言で言うと線が細い。歌もまだまだ。まだ、新人公演を卒業していないようだから、間に合うと思うので、女役に転向してはどうか。雪組以外でも中堅女役が手薄な組はある。

 神月茜。初めてこんな大きな役をしているのを見るが、体格も伴って押し出しがよく、自己中心主義の皇太子を2幕だけでよく表していたと思う。今後本公演で活躍が観たいと思った。

 涼花リサ。新興貴族出身で虚栄心が強く、無機質なドミトリーの妻だが、あまり表情を変えなくすることで彼女の無機質さは表れていたと思う。いつもCS放送で見る人なので、素顔に比べてメイクがもう少し上手になれば可愛く見えるのにと思っていた。
 
 以上色々書いてきたが、1回の観劇では書ききれないところも多々あったように思う。それでは。


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