[掲示板: ミュージカル一般 -- 時刻: 2024/11/29(03:51)]
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こんにちは。今年最後の感想です。皆さん、良いお年を。
「永遠の祈り」
−革命に消えたルイ17世−
星組 シアター・ドラマシティ公演
12月23日 5列7
12月27日 14列8
「永遠の祈り」−革命に消えたルイ17世−
作・演出:中村暁
<解説>
フランス革命から20数年を経て王政復古になった頃。パリの片田舎に暮らすジェラールは、旅の男から自分はルイ17世だと聞かされる。両親であるルイ16世とマリー・アントワネットと共にタンブル塔に幽閉され、両親の処刑後、彼自身も9歳で病死したとされていたが、実は密かに救い出され、タンブル塔で死んだ少年は偽者だったのだと。男は病に冒されており、ルイ16世の印の入った指輪を差し出し事切れてしまう。野心家のジェラールはこの証拠の品を利用しようと考える。
ルイ17世と名乗ったこの青年がどんな運命を辿ることになるのか・・・・・。非情な運命に翻弄されていく人間とそれを取り巻く人々の野望渦巻く世界を浮かび上がらせていく。そして、その非情な運命の中から、ジェラールが愛する娘アンヌにより一筋の光を見出していくまでを描き出す。(ちらしより)
<メインキャスト>(プログラムより抜粋)
ジェラール(フランスの片田舎で暮らす青年):湖月わたる
アンヌ(ジェラールの幼馴染みで許婚):檀れい
マダム・ロワイヤル(フランス革命を唯一人行き抜いた、王女マリー・テレーズ):矢代鴻
ロザルジェ(コンスタンの賭博仲間、貧乏貴族):一樹千尋
ニコラス(マダム・ロワイヤルの補佐役ロシュフコー子爵の部下):立樹遥
ピエール・モラン(ルイ17世だと名乗る旅の男):涼紫央
アルビーヌ(パリの有力商人カナリスの娘):琴まりえ
ジャンヌ(アンヌの友人):仙堂花歩
コンスタン・デュヴァル(ジェラールの友人、元陸軍士官):柚希礼音
<感想>
「『当たり前の幸せ』を再確認する物語」
上のチラシやサブタイトルを読むと「わー、湖月わたるがギラギラの野心家で『俺がルイ17世だー』と名乗り、当時の王宮の権謀術策渦巻く話か」と思っていったら大違いであった。若さから(ジェラール・アンヌともに20歳ぐらいの設定ではないだろうか)の焦燥感(首都以外で成長すると、1度は首都に行ってみたいと女でも思うものである)と功名心にはやる村の青年が、あるものを手に入れたことから一博打売ってみようとするが、最後にはアンヌの行動も通して、自分で今ある「当たり前の幸せ」が大切だということに気づく物語だ。だから、ロビーで「筋がつまらない」という方もいたが、筋が分かりやすく、言いたいことが1つでシンプルなヒューマンドラマなので、特に大劇場では今年の残暑の頃からの演目は「?」渦巻くものや、予習必須の演目を続いて観ていたものとしては、すっきりしていて好感を覚えた。中村暁先生の作品は久しぶりのような気がするが、『黄金のファラオ』にしても『大海賊』にしても、「勧善懲悪」の路線だなーと思ってみていた。同じ中村姓の一徳先生より宝塚での演出の機会が少ないのはどういう事情だか分からないが、せめてバウで1年1回ぐらい登場してもいいような気がするのだが。また主題歌は覚えやすい曲でよかった。あとは人別に。
ジェラールの湖月わたる。それこそ本物の野心家や線の太いダイナミックな役を得意とするこの人が、上に書いたように普通の「村の若者」をどうやるか、と2幕になるにつれ興味を持ってみていたが、台本に書いてある以上に丁寧に心情描写をし、クライマックスの「(村での生活は)幸せでした。〔中略〕私はルイ17世ではありません!」というところは涙が2回観て2回とも溢れていたので、ピュアな普通の青年の心情を軽く演じているように見えた。主演男役(このごろはトップ男役といわないのですね)だからこういう普通の役もこなしてもらわなくては困るのだが、彼女ぐらいのキャリアがあると軽いもの、であろうか。久しぶりに彼女の新しい面を見た気がした。
アンヌの檀れい。許婚のジェラールを心から思って、パリまで出てきて、彼に本当の幸せを気づかせる、これまた普通の「村娘」。難役アムネリスをやった後だがから、こちらも軽くこなしているように見えた。ただ、歌はもう少し主演娘役としてはレベルアップして欲しい。
マダムの矢代鴻さん。出てきただけで、本当の王家の威厳・存在感は専科ならでは。そしてジェラールとの対面の場面では、彼を本当の弟と認めてしまいそうになる優しい人間性も良く現れていて特出していただいただけのことはある。弟を探して歌う歌も流石であった。
ロザルジェの一樹千尋さん。ジェラールをルイ17世に仕立て上げるべく知恵袋となって働く落ちぶれ貴族だが、こちらの方が本当の上手い話でこれから楽をして暮らしたいという野望を持つ人物だ。だから、ジェラールが「マダムとの対面をやめる」というと「もう引き返せないのだ!」と一喝するところなど堂に入ったものだった。また、初めに貴族の身のこなし方を説明する歌は、あとの2人が大真面目で真似するものだから、客席に笑いがおこる場面だった。
ニコラスの立樹遥。ルイ17世を騙るものの身元調査人というあんまりいい職業ではないが、無頼漢でもなく、アンヌに出会い一筋の光明を見つけ思慕を寄せるが告白するわけでもない、という一言で言えば「いい人」だ。しかし「いつも暗闇を歩いてきた〜♪」と歌っている割には台詞にどうしてこんな職業についたのか、陰の中にいるのかという説明がまったく無く中途半端な印象がした。これは脚本のミスだろう。また、ほとんど2幕だけの出番というのもファンにとっては残念だろう。
ピエールの涼紫央。物語の発端となる大事な役だが、台詞が分からないところがなく、役割はきちんと果たしていた。ただ、表情がときたま綺麗に見えないときがあるので気をつければもっと良くなるだろう。2幕は立樹同様、少々時間をもてあますか。
アルビーヌの琴まりえ。大商人の令嬢だが、ジェラールを偽者だと分かっている風をにおわせながら、計算高く媚を売るところは、一筋縄でいかない人物を上手く表していたと思う。2場面だけだが印象に残った。
ジャンヌの仙堂花歩は歌声が美しく、特に一幕の最後は澄んだ声が良く通っていた。
コンスタンの柚希礼音は多分登場人物の中で彼が1番の野心家だと思うが、上手い話に乗って一儲けしたい、そのためにはなんでもする、という野心家を押し出しよく演じていた。今の彼女を見ていると、湖月の下級生の頃が思い出された。湖月も下級生の頃から押し出しは良かった。
最後に、今回はドラマシティ公演ということもあり、出演者が少ない中、一人何役もこなしている人がたくさんいて大変だろうな、と思った。
以上で感想を終わる。今年の金子の感想はこれで終わりです。今年も有難うございました。
<金子のコラム>
予告どおり、今回は「2003年バウホール総括」を。正月からの五連作はのぞく。
〔ベスト1 月組「なみだ橋 えがお橋〕月船さららだから、といって観るのをやめた人、勿体無い!笑って泣いて「ええじゃないか」で終われる最高の娯楽作だった。できれば来年、霧矢大夢で再演してほしいくらい。(しかし、違う演目に決まった・・・)頭を全然使わず楽しかった!
〔ワースト1 雪組「アメリカン・パイ」〕たった一つのことを伝えたいのに、だらだら長くて。同じ萩尾先生の原作ならもっと宝塚向きのものがあるだろうに。貴城けいも損した感じ。バウで初めて「金返せー」と思った。
他は、
宙組「里見八犬伝」はデビュー作とは思えない娯楽作で健闘。
花組「二都物語」は重圧感があるが、少し重かった。
星組「巌流」は物語の書き込みが浅い。
というところでしょうか。来年は、3番手クラスの主演が続きそうだが、これぐらいの学年の人が本来バウはやるところなので、作品の(脚本の)出来が大きく成否に関わると思う。若手の先生もスター(特に主演)の特性に合わせていい作品を発表していただきたい。
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