星組ドラマシティ 「赤と黒」

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461. 星組ドラマシティ 「赤と黒」

ユーザ名: 金子
日時: 2008/3/24(20:41)

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 文芸作品・・・・これだけで客が引く時代になったのでしょうか?安蘭けいファンとして、チケット3回ゲットしていましたが、あまりの完成度の高さに「2回でいいや」と思い、定価でさばいてしまいました。次もまたフランスの話なんですね。とにかく、これからの方は、できれば原作を読んでいってください。読むと読まないとでは理解度がまったく違います。

星組 シアター・ドラマシティ公演

3月14日→16列
3月23日→11列

ミュージカル・ロマン
『赤と黒』 −原作 スタンダール−
脚本/柴田侑宏  演出/中村暁

<解説>
 19世紀中期のフランスの文豪スタンダールの長編小説「赤と黒」を原作に、主人公ジュリアン・ソレルの恋と野望をドラマティックに舞台化した作品。この作品は1975年宝塚大劇場月組(主演・大滝子)で上演し好評を博した『恋こそ我がいのち』(東京公演では『赤と黒』)を、1989年、宝塚バウホール公演(主演・涼風真世)のために改編を加えましたが、今回星組公演として更に新しく手を入れたものです。

 ナポレオンが没し、再び王政復古となった1830年。フランスの小都市ヴァリエールに材木商の息子として生まれたジュリアン・ソレルは、立身出世をし、富と名声を手に入れることを生涯の目的としていた。ナポレオンを崇拝していたが、一介の小市民が軍人になることは難しく、聖職者となって栄達を図ろうと目論んでいた。ジュリアンは司祭シェランのもとでラテン語を学び、神学生になる準備を始める。
 そんなジュリアンに目を付けたのが町長のレナール氏であった。助役のヴァルノと競い合っていたレナール氏は、息子たちにラテン語を学ばせヴァルノに差をつけようと、ジュリアンを家庭教師として迎え入れる。町長には信心深い貞淑な妻がいた。ジュリアンはレナール夫人を征服する事が上流社会を征服することだと思い、誘惑しようとする。レナール夫人はジュリアンに胸のときめきを覚え、愛なく結婚した自分が初めて恋をしたことを悟るのであった。ジュリアンもまた、出世の手段として利用したつもりが、次第に心奪われていく。
 一方、ジュリアンに思いを寄せた女中のエリザは、二人の関係に気づき、嫉妬のあまりヴァルノの密告し、レナール氏の知るところとなる。ジュリアンはシェラン司祭にブザンソンの新学校に入ることを命じられる。校長ピラールはジュリアンに一目置くようになり、パリの大貴族ラ・モール侯爵に彼を紹介する。
 侯爵家にはパリ一番の令嬢と謳われたマチルドがいた。取り巻きの貴公子にうんざりしていたマチルドは、ジュリアンを誘惑してみる気になる。二人は駆け引きを繰り返すうちに、いつしかお互いに惹かれていく。しかし、それがやがてジュリアンに思いがけない悲劇をもたらすことになる・・・・・。(ちらしより)

<メイン・キャスト>
ジュリアン・ソレル(自分に正直に生き、高い理想の中で幸福を追い続けていく青年):安蘭けい
レナール夫人(レナール氏の夫人、邪気のない貞淑な夫人):遠野あすか
マチルド(ラ・モール侯爵令嬢):夢咲ねね

<感想>
「ダイジェストの感否めず」

 人間読破できなかった小説は良く覚えているものである。金子は1989年の再演のとき「よし、原作を読んで観るぞ」と意気込んだものだが、下巻の特に政治にジュリアンが関係するあたりで分からなくなって、挫折したのが「赤と黒」である。結局バウホールにも行かなかった。今回は「うあー、あの小説か」と思っていたところに、新訳(光文社)がタイミングよく出版されて、こちらは読破できた。新訳は訳に問題点もあるらしいが、確かに読みやすく、読後「古典を読んだ」という充実感が得られてよかった。ということで、今回は予習し、観劇に臨んだ。

 フランス文学についてはなんの知識もないが、原作の素晴らしさは、登場人物の非常に複雑な心理を簡潔に描写している点であると思う。この心理は現代に通じるところがあり、それが古典文学としていきつづけているのだと思う。しかし、最初に観劇したときに、何箇所かで笑いが客席に起こった。原作を読んだ側としてはなにもおかしくないのだが、よく考えるとジュリアンとマチルドは特に人格が「突飛」といっていいだろう。その人格が形成された経緯、考え方、などは原作ではことこまかく描写されているのだが、いきなり一部分を切り取られて演じられてはおかしいのだろうな、と思った。

 やはり、原作は長編である。だから、全部やるのは無理である。政治と宗教のところはカットされるだろうな、と思っていたが、やはり「はしょりすぎ」と思った。言葉を変えれば、重鎮柴田先生の手により必要なところだけ上手くピックアップしてある、といえるのだが、原作を読んでしまうとなにかダイジェストを観ている感じがした。脚本としては完成されていて、無駄がないのだが、やはりジュリアンが一番愛したレナール夫人との絡みはもっとほしかった。しかし、ここのところじっくり芝居をしていない感じのする星組では芝居に集中できたことはよかった。

 完成された、といえば出演者のほうもそうである。まず、ドラマシティとしては出演者が豪華すぎて、みな軽々役をこなしているようだった。特に、主演の安蘭けいは念願かなってだからか、初日の次の日に観たときから役に入り込んでいてパーフェクトに近かったし、相手役の遠野あすかもきちんと照準をあわせた演技で、舞台ならではの「千秋楽に近くなると・・・」という期待を持つ必要がない出来だった。ある意味ドラマシティで完成していたように思う。名古屋の千秋楽は「すごいことになる」のか「このままでいく」のかの2択しかないように思えた。

 テーマは「出世できるはずのない生まれの青年が野心を持って世間に挑戦し、恋し愛され、最後には世間に破れるという生き急いだ生き様」というところか。ただ、原作の読後感はもうひとつ、「愚かな青年の選択」というのを強く感じたのだが。95点。

 ただ、前作「エル・アルコン」に比べて国もヨーロッパ、主人公は野心家、そして次の「スカーレット・ピンパーネル」はまたフランスとイギリスの話、と星組としては似たような路線が続いている。プロデューサーさまにはもう少し配分というものを考えていただきたいところだ。

 安蘭けい。ジュリアン・ソレルという青年は自尊心が強く、頭がよく、とにかく幸せのために出世したいという野心に燃える一方、自分の生まれが貧しく、身分がないことに非常にコンプレックスをいだいている人物である。そんな彼の行動は非常に計算高いところもあれば、反対に妙に青っぽいところもあって、複雑な人物である。安蘭は上に書いたように、ジュリアンが現代日本に現れたようで、ひとこと、素晴らしかった。原作にはジュリアンの目が印象的でその目の動きがたくさん描かれているのだが、あの目はレナール夫人・マチルドでなくとも観客すべてを吸い込む力があったようにドラマシティの空間では感じた。白眉はマチルドの部屋への誘いを罠ではないかと逡巡するところ、マチルドに「下衆」と呼ばれて怒るところ、そして最後のレナール夫人の手紙によって野望がついえたときの「絶対許さない」と歌うところの3つである。間違いなく代表作だろう。

 遠野あすか。レナール夫人、という人物は原作を読んで非常に同性として共感したし、素晴らしい女性だと思った。優しく、母性愛が深く、素直で、愛すべきひとである。彼女はジュリアンによって破滅したと表面からは考えがちだが、本当はジュリアンによって女として人生をまっとうした、とかんがえるべきではないか。遠野は初めの「新しい家庭教師が子供たちを鞭で打たないかしら」という母親らしい心配や、ジュリアンを拒みきれない女心、別れ、と展開が原作の何倍も速く、主演娘役としては出番が少ない中で、充分その存在を位置づけた。教会にピストルを持って殺しにきたジュリアンに「ごめんなさいね、ジュリアン、許して」というくだりは短い言葉の中に彼女の心情があふれていた。個人的にはこの主演コンビの場面をもっと増やしてほしかった。

 夢咲ねね。マチルドは美貌・名誉・家柄となにもかもみたされていてこの上なく幸せなのに、その幸せに目を向けず、現在の暮らしに退屈して、先祖のようなエキセントリックな恋ができたら、と考えている、これもまた複雑な人物である。彼女は頭が切れるので、退屈さに我慢できず、その退屈をどうまぎらわせたらいいか、と考えているときにジュリアンに出会い、誘惑してみるのである。ジュリアンとマチルドの駆け引きは原作には延々と記述されているのだが、夢咲は安蘭の胸を借りて、若さの「攻め」でこの役を押し切った。歌はもう少し上達を願いたいが、星組に来ていきなりこのような大役、ということは将来を保証されているのだろう。いちおうの及第点か。

 フーケとコラゾフの柚希礼音は前者では友人の助命のためには全財産を使ってもいい、という純粋さと朴訥さを、後者では貴族のちゃらちゃらしたところを演じ分けていたと思う。2番手としては次の作品が正念場と思う。

 印象に残ったのは、フェルヴァック元帥夫人の華美ゆうかが婉然としてマチルドよりきちんと年上に見えたことと、エリザのこちらも期待株の稀鳥まりやの演技がこちらも「攻め」であったが、すこし感情表現が直線的に感じた。

 後は豪華なメンバーでも小さな役が多くて、気の毒なような気もした。DVDを買う前にもう一度原作を読めればもっとこの作品世界に入っていけるように思う。


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