月組バウホール 「ホフマン物語」

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458. 月組バウホール 「ホフマン物語」

ユーザ名: 金子
日時: 2008/1/4(14:55)

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 あけましておめでとうございます。3が日に宝塚に行ったのは久しぶりです。今年も1年拙文ですが、よろしければお付き合いください。よろしくお願いします。 ところで、年末のドサクサの組替え、いったいなんなんでしょう。次は花組からのスター級が星組へ、星組若手娘役陣がばたばたと退団、ですかね。

月組バウホール公演
1月3日→と列4

 宝塚バウホール開場30周年
「ホフマン物語」 〜オッフェンバックによる〜
脚本/菅沼潤  
脚本・演出/谷正純

<解説>
 バウホール開場記念公演として上演した、フランスの作曲家オッフェンバックによる原曲の持つ良さや親しみやすさを生かしつつ、そこに現代的な感覚も加え、詩人ホフマンをめぐる幻想的な恋を表現した、ロマンティシズム溢れる作品。新劇場でのオペラ上演への挑戦、新機軸を打ち出した装置など、実験劇場バウホールの第一作に相応しい舞台となりました。また初演時に、朝比奈隆氏指揮、大坂フィルハーモニー交響楽団の音楽を使用したのも画期的なことで、今回の再演においてもその音を使用します。

 ニューンベルクの若き詩人ホフマンは、豊かな創造力で名声を得、歌姫ステッラの愛を得、若き芸術家たちの絶大なる支持を得ていた。だが、ホフマンには、彼の夢を砕き愛を奪う悪魔が取り憑いていたのだ。今日も、ステッラが出演する歌劇場と隣接するルーテルの酒場で、仲間たちと飲んでいたホフマンの前に、悪魔が枢密院議員リンドルフに姿を変え、ステッラの愛を奪い取ろうと近づいていた。
 ホフマンは悪魔のために奪われた三人の女性・・・・機械仕掛けの人形・オランピア、瀕死の歌姫・アントニア、妖艶な娼婦・ジュリエッタとの、不思議な恋物語を語り始める。(ちらしより)

<感想>
 「限りなくオペラよりの宝塚」

 個人的なことからはじめるが、一昨年死んだ祖母が、私が宝塚を観始めて20年(!)もするとよく言ったものだ。「いい加減、宝塚から卒業して、オペラとか歌舞伎といった高尚なものを観なさいな」。言われるたびに「私は宝塚でいい」と言い返したものだが、今回この演目を観て家に帰ってこの言葉を思い出したことを母に告げた。すると「あかん、あかん、オペラや歌舞伎なんて。あんたはミュージカルが好きなんやで。それに宝塚は安い。おばあちゃんのいったところの『高尚なもの』は生涯お金に苦労しなかったおばあちゃんレベルの人が言えることや。いまの金子家のレベルでは破産してしまうわ。あんたは一生宝塚にしとき」。

 まず、新春早々お金の話になってしまうが、確かに宝塚のチケット代はよほどでないと1万円もしない。バウホールは一律4500円。正直主演者によって値段差をつけてもいいと思うが、確かに宝塚というところは、プロとアマの境界線にある下級生に対して「育てて観る」というスタンスさえ許容できれば、新作主体でかなり楽しめるところなのだ。「いつでも完璧なものを観ないと気がすまない」という主義でないならば、楽しみは5つの組、上級生から下級生まで、とみてみると尽きないところがある。こういう宝塚においてバウホールは30年前に開場し、この「ホフマン物語」が杮落としだった。たぶん今よりも安いチケット代で宝塚で本格的なオペラを上演しようとした、その心意気は「伝統と斬新」の上にバランスをとっている宝塚の今の姿と変わっていない。安い料金でいろいろなジャンルのものが観られる、この宝塚の精神はファンとしては愛してやまないところである。だから、私は宝塚から離れられないのだろう。

 そして、宝塚の芝居はミュージカルであること。これは日本のミュージカル界においてひとかたならぬ力になっていることはいまさら説明する必要もない。「御伽歌劇」から始まった宝塚の日本におけるミュージカルの創作力は、そのスタッフの数・力・劇団員数において日本一のミュージカル創作劇団といっていいだろう。

 そして、この公演である。結論から言うと、オペラの大本があるなら、宝塚で上演するとなればもっとミュージカル的だと思っていた。それが、2重唱はもとより4重唱まで本格的なオペラのようで、いわゆる「ミュージカルナンバー」的なのは、「♪ダイヤモンドの歌」くらいで、ひたすら月組若手が必死に歌っている、歌詞をがんばって聴こうとしたので家に帰って頭ががんがんした。台詞も少なく、ミュージカルを期待していった自分としては、「はあ、オペラってこんなもんなんやな」くらいしか印象に残らなかった。(隣のオペラファンらしき観客は上演中もプログラムで配役を確認しておられた。宝塚ファンとのスタンスを感じた)

 それとテーマがいまひとつなのだ。あえていうなら、自分自身もなげうって詩作に人生をささげるホフマンの芸術家魂、というところなのだろうが、ホフマンの育ってきた環境、どうやって詩人として成功を修めたのか、といったところがなにもないので主役に心情移入できない。それに、3つの恋の話でもそれぞれのヒロインが不思議な存在なので、そちらのほうに目が行ってしまって、ホフマンは話の外側にいるような感じだった。その恋の話が幻想的といえばそうだが、あまりにも現実味がないのでのっていきにくい。やはりテーマが弱い作品はテーマを探すのに疲れるか、飽きてしまう。

 新春らしく、コスチューム物ではなやかだし、映像も年末とまったく違った意味で上手く使われており、よかったのだが、やはり宝塚ならミュージカルをやってほしかったところだ。それでも、膨大な曲数の上に、4パターンの役替りまである難関をここまで乗り越えてきた月組出演者には心から拍手を送りたい。70点。

 以下は主役を除いては皆が多くの役を演じているので目に付いた人だけ上級生順に。

 明日海りお。最初白い衣装でセンターに現れたときからセンターに立つべき華があることをうえつけた。新人公演主役も未経験なので真ん中に立つことが少し分かっていないところも見受けられたが、スター性は充分である。歌・演技に関してはまだまだ、というところ。ホフマンの大胆さの裏にある繊細さが表現されていればいいのだが。ホフマンの「悪魔」は、彼の心の繊細さが襲ってきていることかもしれないのだから。これだけ歌ったことはないだろうから千秋楽まで喉に留意されたし。

 青樹泉。新人公演主役経験者なので落ち着きと押し出しがあった。全体を通しての「悪魔」役も、鬘を工夫して、長身なので長い髪もよく似合った。主役ではないが相当目立つ。むしろ、彼女がこのパターンの役のほうがいいのではないか、と思った。「♪ダイヤモンドの歌」のナンバーは迫力があった。

 星条海斗。小物の役は金に汚く、資産家の役では有名な「♪ホフマンの舟歌」を歌っていたが、やはり耳の遠い老僕のところが面白くない。思い切り崩す術も必要だと思うが。

 青葉みちる。癖のある役が出来る人だけに退団が惜しいが、妖艶な娼婦、じつは悪魔の手先の魂のない人間であることをきちんと分かるように演じていたのでよかった。ただ、ジュリエッタの髪型はいまひとつ。

 羽咲まな。ソプラノが美しく、薄幸な歌姫がよく似合っていた。表情にメリハリがつけばいいのだが。
 
 夢咲ねね。若手娘役陣が多彩な星組に組替えということはそれだけ期待されているということなのだろう。本当にお人形のように可愛く、人形振りも面白かった。最後のパターンではヒロイン3役ともやるそうだが、そちらも観てみたかった。このまま驀進しそうなので、むしろ星組中堅から若手娘役陣が手薄になりそうで怖い。

 そして未沙のえる。さすがに安定感があり、プログラムにあるように「専科の存在」をずしりと感じさせた。

 とにかく、ワークショップ第一陣、としてはものすごい課題をこなした月組メンバーで、次の花組が楽に見えてきたが、この流れが5組続くことを祈っている。そして締めとしてはやはりバウが生んだ最高傑作『心中・恋の大和路』で今年は終わってほしい。


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